著者
權 五載
出版者
九州芸術工科大学
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は,携帯電話やPDA機器などの小さな情報表示部に多量の情報を表示する際,動的な文字表示方法と文字のサイズが心理的に与える影響と,Eye gazeインタフェースにおける注視点の吸着効果が心理的,生理的に与える影響の考察から,インタフェースのユーザビリティ評価法に有効な知見を求めるものである。本論文における,第2章と第3章はユーザインタフェースを評価するためにパフォーマンス評価と心理的な評価法として主観評価法を用いた。第4章では文字を入力する際のパフォーマンスと,ユーザの心理的,生理的な負担を評価し,その有効性を検証した。通常,ユーザインタフェースの評価は主観評価法を用いて評価することが一般的であるが,本研究では脳波測定を行い,ユーザの主観的な反応と生理的な反応を比較してみることで,より客観的な研究結果を求めたことが特徴である。 / 携帯電話の情報表示部における文字の動的表示 / 2章の研究では,携帯電話の情報表示部に動的文字表示を取り入れた表示方法がユーザの認知的な負担に与える影響を評価し,電子メディアにおける効果的な文字表示方法について考察を行うことが研究の目的である。限られたサイズの表示では,認知に係る負担が少ない表示方法が要求されている。このような認知に係る負担を軽減させる表示方法を探る為に,5種類の動的文字表示方法を用いてユーザが動的文字を認知する過程で現れる心理的反応について考察した。実験を行うために5種類の動的文字テストツール(縦スクロール表示,横スクロール表示,画面切り替え表示,一文字・RSVP表示,一文節・RSVP表示)を設計した。コンテンツはJAVA言語で作成し,Power Macintoshの画面に表示した。被験者は,14人であり,携帯電話を使用している者とした。評価は,読解力テストと主観評価を行い,ANOVAを用いて分析した。読解力テストの結果,5種類の刺激すべてで88.6%以上の正解率を見せ,文章間の難易度差が少ないことを示した。また,読みやすさの主観評価を行った結果,刺激Bの「横スクロール表示」と刺激Dの「一文字・RSVP表示」との間に有意差(P<0.05)がみられた。「横スクロール表示」は,読みやすいと感じる表示速度が速くはないが,心理的評価から認知に係る負担が少ないことが言えた。また,認知的な負担が多いと思われる「一文字・RSVP表示」は,文字をちらつかせ,一文字づつ画面の中央に表示する方法であり,認知的な情報処理の過程で多数の認知的な負担が増加しているものと考えられる。結論として本研究では表示方法として,文字数の少ないコンテンツを小さな画面で読む場合はBの「横スクロール表示」,文字数の多い小説などのコンテンツを読む場合には効率の良いCの「画面切り替え表示」やEの「一文節・RSVP表示」が推奨できる方法であるとした。これらの表示方法は目的に応じて提供した方が良いと考える。 / PDA機器の情報表示部における文字サイズの読みやすさ / 3章の研究では,PDA(Personal Digital Assistant)機器の情報表示部で電子書籍を読む際,文字のサイズがユーザの認知的な負担に与える影響を調査し,主観評価を行い結果を考察したものである。 / 「電子の本」は「紙の本」に比べて大量の情報を簡単に持ち運べることが長所であるが,小さい画面や情報表示部の解像度が印刷物に比べて低下することで,ユーザの心理的な負担が心配されている。本研究では,表示文字のサイズと心理的な負担に関する知見を得る為に,5種類の文字サイズ(8point, 10point, 12point, 14point, 16point)を用い,各サイズ別の文章を読む時に現れる心理的な反応を主観評価した。その結果,表示した文字サイズの中で心理的に読みにくかった文字サイズは8pointであった。 / 有意差検定から得た結論として,最も小さかった8pointの文字サイズはPDAで文章を表示する文字として小さすぎて不適切であり,表示文字サイズは8point以上であることが望ましいと言える。次に,各サイズの主観評価値の示す傾向では,10point, 12point, 14pointと評価が良くなっているのが,16pointで評価が下がっていることを重要視したい。さらに,PDAの限られた情報表示部分で,16point以上のサイズの文字を用いると一度に表示できる文字数が少なくなり,10pointの表示文字と比較すると,文字数で約半数になり,効率が悪いと言う理由から,16point以上の文字サイズはPDAで文章を表示する文字として大きすぎて不適切であり,表示文字サイズは16point以下であることが望ましいと考える。 / Eye Gazeインタフェースにおける注視点の吸着効果 / 肢体が不自由な障害者のコミュニケーション手段として有効であると注目されているユーザインタフェースの一つがEye Gazeインタフェースである。しかし,視線移動による操作は非常に難しく,使いやすくする為にはユーザインタフェースを改善する必要がある。4章の研究では,現在のEye gazeインタフェースの使用において頻繁に現われる注視点ズレ現象を解消させることに着目した。画像要素にカーソルを吸着させる効果を取り入れたインタフェースを考案して制作し,心理的な評価と生理的な評価を行い,注視点の吸着効果の有効性を明らかにした。注視点の吸着効果とは,ユーザが実際に注視しているところからズレている視点を実際に注視しようとしているところに吸着させる方法である。 / 実験の結果,吸着効果のないものより,吸着効果のあるもの方が文字入力がしやすく,生理的な負担が少なかった。これは,Eye Gazeインタフェースの問題点である錯視現象の影響による注視点ズレ現象と人の生理的な眼のメカニズムによるサッカード運動などが吸着効果の適用により,解消したためであると思われる。主観評価の結果,吸着効果のあるものは吸着効果のないものと比べて相対的に高い評価値が現われた。それは,周辺視や近接の法則及び形の判別視知覚の現象による注視点ズレ現象が表われているにもかかわらず吸着効果の影響による注視点ズレ現象が緩和され,心理的な負担を軽減させたものと考えられる。また,生理的な反応を分析した結果,A:吸着効果ありよりB:吸着効果なしで全般的にSlowβ波とFastβ波が有意に高かった。これは,Bのインタフェースを操作する際に,AよりBでα波が減少し,β波が増加したことから,AよりBのほうで脳活動が活発に行われたものと思われる。すなわち,AよりBの方が文字入力遂行中に負担を受けているか,より多くの精神集中あるいは精神活動が活発に行われているものと考えられる。このような結果により,吸着効果を適用することで注視点ズレ現象が解消し,操作がしやすく負担が少なくなったものと考える。 / 以上の結果により,本研究でコーザインタフェースを評価する方法として用いた,心理的,生理的な評価は,タスクを遂行する際に現れる心理的な要素と生理的な要素を把握することに重要な役割を果たし,インタフェースデザインのユーザビリティ評価に有効であることを示した。
著者
小野英志
出版者
九州芸術工科大学
巻号頁・発行日
1998

タイムズ・ニュー・ローマンは、ロンドンで発行されている平日版朝刊紙『ザ・タイムズ』の専用タイプフェイス(活字書体)として、1932年にデザインされたものである。翌1933年、開発主体であるタイムズ紙がその独占的使用権を放棄して一般に解放したため、それ以降たいへん広範にわたる普及をみせ、現在では、例えばパーソナル・コソピュータのシステムに標準的に添付されるような状況にある。 この書体については、その開発経緯に関わる幾つかの研究が行われているが、いずれも開発責任者であるスタンリ・モリスンのディレクションのありかたが中心となっている。「タイプ・デザインに際して独自のラフスケッチを起こした」というモリスン自身による記述に対しては、モリスン没後、複数の研究者によって否定的見解が示されているが、ラフスケッチに代わるものは何であったのか、モデルとした書体はプランタン・モレトゥス博物館のものなのか、あるいはモノタイプ社が20年前に製品化したものか、などの未詳の部分を残しつつも、これらの諸研究は専ら書体史家でタイポグラファたるモリスンの個人的資質にタイムズ・ニュー・ローマンのデザインの契機を見い出そうとしている点で共通している。 本研究では、タイムズ・ニュー・ローマンに対するタイポグラファの評価、先行研究を概観(第2章、第3章)した後、開発を発注したタイムズ紙、それを受注した英国モノタイプ社、開発責任者モリスンの三者いずれにも、当時新聞印刷専用書体として広く普及していたレジビリティ・タイプを忌避し、オールド・フェイスの手直し向かう高い蓋然性が存在していたことを明らかにした。 第4章では、タイムズ紙について検討した。同紙は1784年に印刷所として創業されているが、創業時に於ける最新組版技術ロゴグラフィの特許買収以降、印刷技術面での同業他社に対する優位性を常に主張してきている。特に19世紀に入ってからは、印刷に関わる技術開発で世界的なリーダーシップを発揮し、1828年から1868年にかけては20年毎に自社技術として輪転機を新規開発している。 20世紀に入って経営危機を経験した後は、印刷技術を自社開発する積極的姿勢は後退したが、「スペシャル・プリンティグ・ナンバー」と称する別冊をたびたび発行し、依然として新聞印刷におけるリーダーたることを強くアピールしている。またニューズ・メディアとしての成長も著しく、タイムズ・ニュー・ローマン開発当時、タイムズ紙は自他共に認める世界で、最も権威あるニューズ・メディアであった。したがって、既に広く普及しているレジビリティ・タイプを、しかも他紙に大きく遅れて採用したのでは自己の権威の否定にこそなれ、強化にはならない。すなわちタイムズ紙には、レジビリティ・タイプを忌避する素地があった。 次に第5章では、英国モノタイプ社について検討した。同社は鋳造植字機メーカーとして、米国モノタイプ社から南北アメリカ大陸以外の地域に於ける営業権を獲得して1897年に発足し、1908年にタイムズ紙がモノタイプを導入した後は経営的にも安定した。 1912年の雑誌『インプリント』に対する新書体開発での協力を契機に、オールド・フェイスの覆刻を中心とする新書体開発に力を注ぎ、また、ウィリアム・モリスらに由来する機械の使用に対して否定的な態度を、印刷・出版界から排して徐々に書籍印刷市場に浸透していった。ケンブリッジ大学出版局やナンサッチ・プレスなどの有力出版社が、鋳造植字機としてのモノタイプのみならず、英国モノタイプ社が開発した新書体を積極的に使用する事態が手伝って、タイムズ・二ュー・ローマン開発当時には、同社は英国の書籍印刷市場に於いてほとんど独占的支配を達成する。しかし、英国モノタイプ社の競争相手であり、新聞印刷市場に強いライノタイプ社やインタータイプ社によって開発され普及をみたレジビリティ・タイプと同様のものを開発しても、英国モノタイプ社にとってはマーケットでの競争力の強化にはならないため、英国モノタイプ社にもレジビリティ・タイプを忌避し、書籍市場から歓迎されているオールド・フェイスの覆刻に重点を置く製品計画を継続する素地があった。 次に第6章では、スタンリ・モリスンについて検討した。彼には独学によって形成した書体史に関わる該博な知識と、タイポグラフィックなデザイン・ワークの実務経験はあっても、タイプフェイスそのものをデザインするタイプ・デザイナーとしての実技能力や経験はなかった。したがって、彼にとっては既存の書体の手直しが、最も迅速かつ確実な手段であった。そのためモリスンはタイムズ紙との事前の合意形成の手段として、1930年に『タイムズ紙のタイポグラフィ改訂に関するメモランダム』をタイムズ紙宛てに提出した。その中でまず彼は、より質の高い書籍印刷を新聞印刷も目指すべきことを主張し、さらにその書籍印刷においてはオールド・フェイスの使用が主流となっていることを示唆した。この『メモランダム』を根拠としてモリスンは、オールド・フェイスの採用という方針に沿ってデザイン・ワークを指揮し、タイムズ・ニュー・ローマンをタイムズ紙の専用新書体として完成させた。 第7章で、タイムズ紙、英国モノタイプ社、モリスンの三者に対する検討を総括した後、第8章では、タイムズ・ニュー・ローマンの歴史的位置付けとして、次のように結論づけた。 タイムズ・ニュー・ローマンの形態上の直接的なモデルは、ダッチ・オールド・フェイスと呼ばれる、17世紀頃のオランダのタイプフェイスのひとつであるプランタンに求めることができるが、その開発の姿勢は、19世紀中葉のイギリスに始まった印刷復興の動きと志向性を同じくするものである。この印刷復興はチジク・プレスによるキャズロン製のオールド・フェイスの復刻をもって開始されたと見るのが一般的であり、タイムズ・二ュー・ローマンもまた、英国モノタイプ社に於いて一連の古典的タイプフェイスの覆刻を指揮しつつあったスタンリ・モリスンが開発した点で、オールド・フェイス復活すなわち印刷復興以来の流れに沿うものである。しかし、このタイプフェイスの開発の直接のきっかけは、新聞印刷専用書体であるレジビリティ・タイプの急速な普及によってもたらされたもので、その点ではタイムズ・二ュー・ローマンには、レジビリティ・タイプに対する一つの対案という性格が認められる。すなわちタイムズ・ニュー・ローマンとは、継時的には、ルネサンス期のオールド・フェイスからダッチ・オールド・フェイスさらには印刷復興期の覆刻オールド・フェイスという、欧米のタイプ・デザインの主流の末端に位置するものであり、同時的には、新聞の高速大量印刷を背景としてつくられたアメリカ製レジビリティ・タイプに拮抗する、イギリス製の相対的タイプフェイスとして位置付けられるものである。
著者
岩宮 眞一郎
出版者
九州芸術工科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

本研究では,江戸時代から現代に至る,音に関する記述のある俳句3,810句を素材として,音と音が聞かれた状況の関係を探ってきた。俳句の表現された音環境は,日常生活の中で,耳を傾け,愛着を憶えた音のコレクションにほかならない。そこには,日本人の音感性が反映されている。本研究では,まず,素材とした俳句に詠まれた音,その音が詠まれた季節,地域を,いくつかのカテゴリーに分類し,音と季節,地域の関わりを示すクロス表を作成した。そして,このように分類したデータに,情報理論のエントロピーの概念を適用して,音と季節、音と地域との依存性を定量的に把握することを試みた。さらに,林の数量化理論第3類の適用により,音,季節,地域の各カテゴリーを空間上に布置し,各カテゴリー間の関係を包括的に理解することができた。以上の分析を通して,「秋の虫の鳴き声」,「町に季節の訪れを知らせるもの売りの声」,「社寺仏閣のサウンドスケープ」,「水辺のサウンドスケープ」といった,特徴的なサウンドスケープを捕らえることができた。それぞれのサウンドスケープを詠んだ代表的な句は,「鈴虫の声ふりこぼせ草の闇-亜柳」,「夜のかなた甘酒売の声あわれ-原石鼎」,「除夜の鐘幾谷こゆる雪の闇-飯田蛇忽」,「六月の風にのりくる瀬音あり-久保田万太郎」などである。俳句の中に詠み込まれている音は,ごくありきたりの,どこにでもあるような音ばかりである。その平凡な音が,我々の生活や自然環境といったコンテクストに意味づけられ,価値づけられたとき,我々の心の琴線に触れる。しかし,これらのサウンドスケープは,様々な環境騒音があふれる今日,意識されないことも多い。快適な音環境を創造するためには,こういった日本の音の原風景ともいえる音環境を意識し,保全することが求められる。
著者
成 恩貞
出版者
九州芸術工科大学
巻号頁・発行日
2000

本研究では,冬季における入浴がその後の睡眠に及ぼす影響を検討するために,足浴と入浴との比較,および適切な入浴のタイミングについて述べた。 / 第Ⅰ章では,本研究の背景と目的として,人間が生きている限り不可欠な睡眠の重要性に言及し,この睡眠を妨害する因子について述べた。快適な睡眠を妨げる環境因子としては,温湿度,光,音などが挙げられ,現代人は住居や寝具の改善によって睡眠中に暑さや寒さの影響を受ける場合が少なくなったにもかかわらず,寝室の温湿度が寝つきに大きく影響している場合が意外と多かった。日本の冬季は寒く,寝室の温度も低いが,暖房が行われていないのが現状であり,入眠しにくいことや中途覚醒が多いことなどが指摘された。 / 入浴は,身体清潔,保温,疲労の緩和,爽快感の追究などを目的として行なわれ,入浴による生理的影響は,温熱作用,静水圧作用,浮力が挙げられている。就寝前の入浴は精神鎮静,催眠の働きがあり,より良い睡眠への手段として期待される。しかしながら,冬季には高齢者において入浴中の死亡が起きており,特に脳卒中,心筋梗塞の患者には注意が必要とされる。足浴は入浴の代案として利用されている看護介入の手段の一つであり,身体清潔や全身を温め,爽快感を齎して気分を緩めるなど,不眠の援助としても有効な手段であることが知られているが,経験的な評価にとどまっている。 / これまでは,サウナ,運動,入浴による身体加熱が睡眠に及ぼす影響について報告され,入眠の短縮や徐波睡眠の増加などが示された。しかしながら,こうした研究において行なわれた入浴方式は長時間にわたって何回も繰り返したものであり,これらの研究結果が日常の生活において現われる効果であるかどうかは定かではない。そこで,本研究では,できるだけ日常で行なわれる入浴行動を模擬し,実験室での睡眠実験を行なった。 / 第Ⅰ章より,冬季の睡眠前に行なわれる入浴や足浴は,睡眠妨害を減らして,より快適な睡眠が得られると予測された。そこで,第Ⅱ章では,日常の入浴と足浴がその後の夜間睡眠に及ぼす生理的,心理的影響を検討することを目的とした。この実験に際しては,健康な女性9名を被験者とし,40℃・20分の全身入浴を行なった後の睡眠,42℃・30分間膝下までの足浴を行なった後の睡眠,そして就寝前に温浴を行わない睡眠の三つの条件として実験を行なった。なお,環境条件は日本の冬季の寝温室を想定し,10℃,50%RHとして設定した。その結果,就寝前に行なわれる入浴および足浴によって,入眠潜時の短縮,睡眠初期の体動の減少,入眠時の皮膚温の上昇,主観的睡眠感の向上などが示された。また,入浴条件では全睡眠時間を通じた直腸温の上昇,およびREM睡眠の減少,足浴条件ではstage3の増加が見られた。これらの結果により,冬季における睡眠前に行なわれる入浴や足浴は入眠に効果があり,特に,足浴はREM睡眠の減少が生じなく,睡眠の質を高め,より有効な手段であることが示唆された。 / 第Ⅱ章の結果より,就寝直前に行う入浴は就寝直前に行う足浴よりもREM睡眠の減少などの現象が見られ,直前入浴後の睡眠自身体への負担がかかることが推察された。そこで,第Ⅲ章では,就寝2時間前に入浴を行なった場合と就寝直前に入浴を行った場合を,入浴無しの場合と比較しながら検討した。なお,入浴無しの場合においては,就寝前に暖房された居間で過ごすような条件で行い,より現実的な実験手順として行なった。即ち,睡眠に対してより効果的な入浴のタイミングを着目して,出来るだけ日常の入浴行動に合わせた上で,冬季の就寝直前に終了させる入浴と就寝2時間前に行う入浴が睡眠に及ぼす影響について検討することを目的とした。その結果,就寝2時間前の入浴によって,徐波睡眠が増加し,入眠潜時および中途覚醒時間が短縮され睡眠効率が高くなり,良い主観的睡眠感が得られた。直前入浴の場合は入浴を行なわない条件よりは体動が少なくなり,良い睡眠感を示したが,REM睡眠の減少や後半睡眠における徐波睡眠の減少などの第Ⅱ章にも示されたような問題点が示された。そこで,冬季において睡眠前に行う入浴の時期は,就寝2時間前の方が就寝直前よりも良い睡眠を得るために有効であることが示唆された。 / 以上の結果により,冬季において,より良い睡眠をとるためには,睡眠直前に全身入浴を行うよりは足浴を行なうほうが有効であり,入浴を行なう場合は就寝直前よりは2時間程前に行うほうがより質の良い睡眠が得られることが示された。そこで,より質の良い睡眠をとるためには,入浴後すぐ寝床に入るよりは入浴後リラックス時間を過ごした上に睡眠に入ることが大切であり,足浴は入浴の代わりに身体的,精神的快適感が安全にまた効果的に得られることから,特に障害者や高齢者,もしくは心臓疾患の患者において睡眠援助の手段として有効であろう。 / 本研究は,室内暖房されてない状況を想定して行なわれたが,寝室や浴室が暖房された状況での入浴による睡眠の影響も調べる必要があろう。さらに,全身入浴と足浴の中間形態である半身浴,微温で長時間の入浴,シャワーを行なった後の睡眠についても今後検討の必要があると思われる。
著者
大槻 洋二
出版者
九州芸術工科大学
巻号頁・発行日
1998

近年、日本の近代都市史研究は様々な分野から多様な研究が提出される中で、とりわけ都市空間を問題の中心に据えた分析態度が共有され、近代都市施設や近代都市の制度、規範などを通して、近代都市の空間構造を主に普遍性に重点を置いて捉える「都市を支えるもの」と、都市空間を生きる人々の生活意識のありようを基点に、近代都市の空間構造を主に固有性に重点を置いて追及する「生きられた都市空間」の2点の視座を持つに至った。このうち、建築史学の立場にたつ日本近代都市史は、「都市を支えるもの」への研究に偏在し、その背景として、周辺領域と交流を深めつつ一連の体系をなす近代以前の日本都市史の流れが近代になると途絶え、一転して西洋の建築・都市思想の受容とその変容の歴史としてのみ捉えられるようになる点が挙げられる。今後、この点を解消するためには、都市を計画する主体からの視点を一旦離れ、都市空間を生きる人々の総体として物理的な都市空間そのものを捉え直す作業が求められる。 以上の問題意識を踏まえ、日本の比較的大規模な近代都市に多数存在した自律的形成をみた歓楽街に注目する。なお「盛り場」は、各時代を通じて存在する賑わいの場を全て含む広範な概念であり、歓楽街は近代に見られる「盛り場」の在り方の一つと考えられる。また、歓楽街の自律的形成の実態を解明する為には、これまで建築史の立場からの近代都市史研究に見られた計画理念の抽出とその顛末の分析ではなく、歓楽街の自律的形成から展開にかけての過程及び空間構造を、物理的な都市空間そのものに即して解明する方法をとる必要があり、先に指摘した建築史の立場からの近代都市史研究の問題点を解消する上で、妥当な研究対象及び方法である。 この結果、本研究の目的は、日本近代における自律的形成を見た歓楽街を対象に、その物理的な都市空間の成立から展開までを考察し、歓楽街の都市空間そのものが持つ特質を明かにすることにより、計画原理では捉え得なかった新たな近代都市空間像構築の一助とすることにある。 本論は2編で構成されている。第1編と第2編はそれぞれひとつの歓楽街を対象に、各編の前半、すなわち第1章、第3章では歓楽街成立の前提及び要因を、また後半、すなわち第2章、第4章では歓楽街の実態とその変容を中心に、空間に即して詳細な検討を加えた。 このうち、第1編では、近代になって主要な都市空間が形成された都市における歓楽街の事例として、神戸の新開地の採り上げた。第1章では、新開地を取り巻く緒事象に注目し、地図史料を用いた空間分析や文献史料を用いた空間の成立経緯から、新開地の空間形成要因と歓楽街成立の契機を求めた。第2章では、歓楽街としての新開地の空間構造に注目し、地図史料を中心に空間構成や諸施設の配置構成などから、新開地の歓楽街空間の実態とその変容を明かにした。 第2編では、伝統都市の近代における歓楽街の事例として、京都の新京極を採り上げた。第3章では、新京極の起源である寺町の寺社境内の歓楽的な場に注目し、この空間構成の復元作業を行い、その起源及び実態を解明し、歓楽街成立の前提を探った。第4章では、歓楽街としての新京極の空間構造に注目し、第3章の成果との比較の視点を持ちつつ、地図史料を中心に空間構成や諸施設の配置構成などから、新京極の歓楽街空間の実態とその変容を明らかにした。 結論では、第1編、第2編の成果を用いて、歓楽街の特質を明らかにし、本研究の総括を行った。まず、新開地と新京極の特質をその差異と共通点に注目しつつ整理した後、歓楽街成立における空間的成立条件として、既成の都市空間の内部に位置し、周囲の都市空間とは異質な性格を帯び、かつ自律的に成立した点(近代都市構造における空隙性)、1本の主街路と複数の従街路によって極めて指向性の強い都市空間構成をとる点(線形の都市空間)、線形の都市空間の両端において都市機能上の重要な役割を担う都市空間、都市施設と直接的に結合している点(複数の都市機能上の核の結合)の3点を指摘した。続いて、歓楽街の時間的変遷の傾向として、諸施設が主街路に直面し、かつ隙間無く連続して建ち並び、かつ景観統一が行われる傾向が見られる点(主街路に沿った『街』化)、逆に主街路から歓楽的な機能を持つ施設は漸減し、ひいては小売施設を中心とする商店街へと変質する動きが存在する点(脱歓楽街化)の2点を指摘した。 以上の結果、歓楽街はその母都市の近代化過程によって生起された「空隙性」と「核の結合」による「線形の都市空間構成」を基盤に成立するが、「『街』化」という傾向を示しつつ都市空間として充実すると同時に、「脱歓楽街化」という歓楽機能が漸減する傾向が見られた。
著者
綿貫 茂喜 大箸 純也 佐藤 陽彦 安河内 朗 小林 宏光 大箸 純也 綿貫 茂喜
出版者
九州芸術工科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

生体電気現象を主な対象とした、コンピュータによる信号の監視・記録・分析ソフトウェアを開発した。対象としたコンピュータは、一般的に用いられているNEC PC98,IBM PC-ATの互換機および数社のAD変換器とし、一般的な機器のみで構成できる。また分析ソフトウェアについてはMacintoshでも利用できるようにした。本ソフトウェアによって、生体電気現象の波形観察と長時間の変化傾向の観察が同時に可能となり、また分析のためのマークを含めた記録が長時間可能となった。これらの監視記録装置としての機能以外に、時間制御を主とした簡易プログラムが可能であり、実験スケジュールを組み込むことで実験補助としての機能を持つ。また簡単な刺激発生の制御にも利用できるために、実験機器としての機能も有し、特殊な外部プログラムを利用することで、記録と並行して周波数分布の監視も可能である。またノート型のような小型のコンピュータでも利用可能であり、携帯用の記録機としても利用可能である。記録したデータの分析ソフトウエアとして、記録信号の表示、テキストファイル変換、FFT法による周波数分析、心電図のR棘間隔の検出、連続血圧計出力からの最大、最低血圧の読み取り、積分値の算出、APDFの算出、CNVの算出、較正波形の読み取り、単純分布の算出等を作成した。また2つのみであるが、他のソフトウェアのためのファイル変換も行なえる。グラフィカルインターフェースは有しないが、バッチ処理的な利用で効率の良いデータ処理が可能であり、機能的には多くの研究に有効であると考える。本ソフトウエアは無償で提供する。
著者
安河内 朗
出版者
九州芸術工科大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

本研究は、日韓の民族服である和服と韓服(チョマチョゴリ)を両国の被験者それぞれに着衣させ、高温曝露中の生理的、心理的諸反応を比較することによって衣文化にともなう耐暑反応の違いを検討することを目的とした。被験者は、日本と韓国の健康な女子大学生各々6名で、身長、体重、体表面積、皮下脂肪厚にみられる身体的特徴はほぼ同じであった。使用した和服は浴衣、帯、下駄など、韓服はチョマ、チョゴリ、靴などで構成され、それぞれの全重量は1,232g,1,151gであった。また生地は和服が綿、韓服が絹であった。被験者は同国の2名ずつが1組となって和服か韓服のいずれかを着用し、前室26℃(RH50%)で30分安静後、35℃(RH50%)の高温環境へ立位に近い椅座位で90分間曝露された。測定項目は、直腸温、皮膚温(7点)、発汗率、心拍数、及び温冷感、快適感の主観評価であった。発汗率が和服では日韓両被験者でほぼ等しかったが、韓服においては日本人被験者の方が韓国人被験者よりも大きかった。平均皮膚温の上昇度は、和服で日本人被験者がより大きく、韓服では逆に韓国人被験者がやや大きい値を示した。直腸温の上昇度は、和服で日韓両被験者はほぼ等しく、韓服において韓国人被験者の方が小さかった。韓服では日本人被験者はより大きな発汗率を示したにもかかわらず直腸温の上昇度は大きくなることが示された。
著者
米村 典子
出版者
九州芸術工科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

グリゼルダ・ポロックの1998年の論文「モダニティと,女性性の空間」はフェミニズム美術史の中でも,男性/女性,見る/見られるの二項対立構造を脱構築しようとした画期的論文であった.だが結びに至ってポロックは,同性の間でのみ女性は見る主体として自由になれるととれる論調に転じ,二元論に回帰している.本研究では,画家とモデルの見る/見られるの関係が最もむき出しで立ち現れるアトリエという遮蔽された空間に注目し,アトリエにおける女性画家の眼差しの性格を明らかにすることと,それによりポロックのいう「女性性の空間」に従来とは別の角度から批判と展望を加えることを目的とした.・平成9年度1)文献資料収集:印象派の女性画家ベルト・モリゾやメアリ・カサットだけでなく,19世紀後半によりアカデミックな作風で描いた女性画家たちの書簡集,画集などの資料を収集し,検討した.2)視覚資料の収集とデータベース化:個人のアトリエおよび美術学校の教室としてのアトリエの写真を収集し,検討した.女性画家たちの作品やアトリエ内を描いた絵画や写真資料については,スライドに撮影し,コンピュータに画像として取り込みデータベース化した.・平成10年度1)引き続き資料収集の解読・検討,入手した資料のデータベース化を順次行った.2)女性画家の自己イメージをその表像から検討する.この点で興味深い画家として,日本では未紹介のマリー・バシュキルツェフを発掘し,その生涯と作品について調査を行った.・平成11年度バシュキルツェフについては,「「描/書く」女――マリー・バシュキルツェフとフェミニズム美術史」というタイトルで論文集『女性たちの近代』(勁草書房2000年出版予定)においてまとめた.また,研究成果報告書では,ポロックが『女性性の空間」を示しているとしたアトリエのモリゾとモデルの写真の再検証を出発点として,アトリエという空間にいる女性画家という視点からポロックの二元論を回避する新視点を提起した.