著者
縣 和一 武内 康博 山路 博之 青木 則明
出版者
日本芝草学会
雑誌
芝草研究 (ISSN:02858800)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.18-25, 2011-10-31 (Released:2021-04-22)
参考文献数
23

1) 本報では, ベントグリーンのアントシアニン色素斑形成に関与する気象要因である低温, 可視光, 近紫外線の影響を明らかにするために, 冬季低温下で可視光, 近紫外線の透過率が異なる資材を用いた被覆試験を行った。その結果, アントシアニン色素は冬の低温下で生成されるが, 日中の近紫外線によって誘導されることが近紫外線強度とアントシアニン含量との一次相関から示された (Table 1, 2) 。同様の結果は, 近紫外線強度を4水準に変えたポット試験からも立証された (Table 3) 。2) 紫斑の色調程度を異にする芝生から採取した葉について光合成速度を測定し, 測定葉から抽出したアントシアニン含量と光合成速度との関係をみたところ, 両者間に負の有意な相関関係が認められた。このことはアントシアニン含量によって光合成速度が抑制されることを示している (Fig. 1) 。3) 光合成速度の低下は, アントシアニンが可視光をよく吸収することによっていることが測定葉から抽出したアントシアニン濃度と可視光透過率との相関解析から判明した (Fig. 2) 。4) アントシアニン抽出液の近紫外線吸収率は高く, アントシアニンが葉肉組織の紫外線障害防御の機能を果たしていることが推定された (Fig. 2) 。5) アントシアニン抽出液の太陽光照射による液温測定からアントシアニン濃度と液温上昇との間に正の相関関係が認められた (Fig. 2) 。この結果は, アントシアニン色素が葉温を高める効果のあることを示唆している。6) 紫斑葉と非紫斑葉から抽出したクロロフィル液, アントシアニン液の光吸収スペクトルを検討した結果 (Fig. 4), 前者のスペクトルは同一であったが, 後者では, 紫斑葉の抽出液の吸収スペクトルが全波長域で高く, 500nmに吸収極大がみられた。この結果は, アントシアニンが可視光をカットすること, 吸熱による昇温効果の大きいことと一致する。7) 以上の結果から, 冬の低温下で生成されるベントグラスのアントシアニン色素の増大は, 紫外線吸収による組織障害の防御, 可視光カットによる光合成の抑制 (光化学反応の抑制) と吸熱によるCO2還元反応の促進に寄与する生理的適応機構と推定できる。