著者
縣 和一
出版者
日本芝草学会
雑誌
芝草研究 (ISSN:02858800)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.18-26, 2008-10-31 (Released:2021-04-08)
参考文献数
27
被引用文献数
3

本報告は, わが国におけるゴルフ場の主要植生である芝地植生と林地植生の光合成による大気の浄化, 温暖化防止に対する効果を明らかにする目的で, ゴルフ場の規模別, 地域別面積, 生育期間, 用途別芝地の芝種とその純生産量, 森林タイプ別純生産量を基礎にCO2固定量, O2発生量および蒸発散量を算出して大気の浄化と温暖化防止に対するゴルフ場の寄与について検証した。その結果以下の諸点が明らかになった。1) わが国のゴルフ場は, 規模別では18Hが68%を, 27Hが20%, 36Hが11%を占め, 平均面積は, それぞれ100, 128, 172ヘクタールであった。総面積に対する芝地面積の比率は, 18Hが43%で27H, 36Hでは49%前後を占め, 林地面積が50%以上であった (表5)。2) ゴルフ場の規模による用途別の芝地の比率は大差なく, 18Hの平均値でラフが62.7%, フェアウエイ31.2%, ティー2.6%, グリーン3.5%であった (表5)。3) 全国の18Hを対象にした芝地面積と林地面積の比率および用途別の芝地面積比率に地域間差異がみられた (表6)。これは地域によって気象, 地形, 土地利用条件が異なるためと考えられる。4) 全国のゴルフ場の芝地植生, 林地植生には種の違いがみられ, 芝種により生育期間の長さ, 平均気温が地域によって異なった (表7, 8)。5) 芝地植生と林地植生のCO2固定量, O2発生量, 蒸発散量の試算は, 有機物の純生産量を基礎に行った。両植生の純生産量の基準値には, 主として国際生物学事業計画 (IBP) の調査結果を採用した (表1~4)。6) 純生産量である有機物生産は, 北海道, 東北, 中部で小さく, 関東以南では低緯度地域に行くほど大きくなる傾向がみられた。これは生育期間が南に行くにつれて長くなることが関係していた。CO2固定量, O2発生量, 蒸発散量には有機物生産と同傾向の地域的変異がみられた (表9)。7) ゴルフ場の規模別有機物生産量は, 18Hで1,148トン, 27Hで1,440トン, 27Hで1,936トンであった。CO2の固定量, O2発生量, 蒸発散量も規模別にほぼ同様の傾向であった (表10)。8) 全国のゴルフ場の総計をみると, 総面積は約27万haで, 有機物生産の総量は年あたり314万トン, CO2固定量は460万トン, O2発生量は336万トン, 蒸発散水量は11.7億トンであった (表11)。CO2固定量を排出係数で除して電力量に換算すると, 約110億kWhとなり, 約230万標準世帯の年間消費電力となった。このことは全ゴルフ場が, これだけの電力を発電する際に発生するCO2量を吸収固定する潜在能力を有することを示している。これは京都議定書の削減計画の森林整備による目標削減量である4,680万トンの約10%に相当するCO2量である。また336万トンの発生O2量は約1,225万人の年間に必要な酸素給源になることがわかった。9) 以上から, 全国のゴルフ場は, CO2とO2のガス交換, 水の蒸発散を通して大気の浄化, 気象改善に有効であり, 地球温暖化防止に寄与していることが判明した。
著者
縣 和一 武内 康博 山路 博之 青木 則明
出版者
日本芝草学会
雑誌
芝草研究 (ISSN:02858800)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.18-25, 2011-10-31 (Released:2021-04-22)
参考文献数
23

1) 本報では, ベントグリーンのアントシアニン色素斑形成に関与する気象要因である低温, 可視光, 近紫外線の影響を明らかにするために, 冬季低温下で可視光, 近紫外線の透過率が異なる資材を用いた被覆試験を行った。その結果, アントシアニン色素は冬の低温下で生成されるが, 日中の近紫外線によって誘導されることが近紫外線強度とアントシアニン含量との一次相関から示された (Table 1, 2) 。同様の結果は, 近紫外線強度を4水準に変えたポット試験からも立証された (Table 3) 。2) 紫斑の色調程度を異にする芝生から採取した葉について光合成速度を測定し, 測定葉から抽出したアントシアニン含量と光合成速度との関係をみたところ, 両者間に負の有意な相関関係が認められた。このことはアントシアニン含量によって光合成速度が抑制されることを示している (Fig. 1) 。3) 光合成速度の低下は, アントシアニンが可視光をよく吸収することによっていることが測定葉から抽出したアントシアニン濃度と可視光透過率との相関解析から判明した (Fig. 2) 。4) アントシアニン抽出液の近紫外線吸収率は高く, アントシアニンが葉肉組織の紫外線障害防御の機能を果たしていることが推定された (Fig. 2) 。5) アントシアニン抽出液の太陽光照射による液温測定からアントシアニン濃度と液温上昇との間に正の相関関係が認められた (Fig. 2) 。この結果は, アントシアニン色素が葉温を高める効果のあることを示唆している。6) 紫斑葉と非紫斑葉から抽出したクロロフィル液, アントシアニン液の光吸収スペクトルを検討した結果 (Fig. 4), 前者のスペクトルは同一であったが, 後者では, 紫斑葉の抽出液の吸収スペクトルが全波長域で高く, 500nmに吸収極大がみられた。この結果は, アントシアニンが可視光をカットすること, 吸熱による昇温効果の大きいことと一致する。7) 以上の結果から, 冬の低温下で生成されるベントグラスのアントシアニン色素の増大は, 紫外線吸収による組織障害の防御, 可視光カットによる光合成の抑制 (光化学反応の抑制) と吸熱によるCO2還元反応の促進に寄与する生理的適応機構と推定できる。
著者
縣 和一
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1994

平成6年度においては,水上栽培技術の基本となる筏の素材,栽植密度,肥料の種類と施肥量などについて検討し,標準となる基本技術を確立した.また水上栽培に適する種の選定を30種の植物を対象に行った.その結果,カンナとシュロガヤツリが生育旺盛で水上栽培に最適であることがわかった.この2種のバイオマス量および窒素分析値から求めた水中からの窒素収奪量は大きく,水質浄化効果の高いことが立証された.次にコムギとイネで施肥量とバイオマス,収量との関係を実験した結果,コムギ,イネとも水上栽培区は無栽培区に比べて水中のNO3-N,NH4-N,全リン濃度が低く,CODは水上栽培区で顕著に減少することが明らかになった.平成7年度は,平成6年度の結果から明らかになった水上栽培に適するカンナ,シュロガヤツリの2種を対象に水上栽培におけるバイオマス量,水質浄化能を土耕栽培と比較した.またカンナを対象に生長解析,光合成測定を行い水上栽培植物の特性を明らかにした.さらに数種植物の根の組織構造を土耕栽培と比較した.その結果,(1)カンナ,シュロガヤツリとも土耕栽培に比べて水上栽培ではバイオマス生産が顕著でカンナで4倍,シュロガヤツリで5倍の値が得られた.植物体の窒素分析から窒素含有率とバイオマス量を乗じた両植物の水中からの窒素収奪量は大きく水質浄化能の高いことが明らかになった.特に,シュロガヤツリは窒素以外にリン,カリの含有率が高く,水中からのリン,カリの収奪量が顕著で両成分のエリミイネーターになることが判明した.(2)水上栽培したカンナの高いバイオマス生産は面積生産速度の大きいことに加えて単位葉面積当たり乾物生産速度(NAR)が高いこと,高いNARは光合成速度が水上栽培カンナで大きいこと,さらに高い光合成速度は気孔を介してのCO2拡散系と葉肉組織における高いCO2固定能力にあることが要因解析から明らかになった.(3)水上栽培植物は土耕栽培植物に比べて根の破生組織がよく発達する傾向がみられたが,これには種間差がみられ,双子葉植物に比べて単子葉植物で発達が著しかった.また破生組織の発達と根の比重との間に高い相関関係がみられた.
著者
宋 祥甫 縣 和一 川満 芳信
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.107-112, 1990-03-05
被引用文献数
4

水稲の子実生産は, 出穂期前に稈・葉鞘部に蓄積された非構造性炭水化物 (NSC) と出穂後の葉身光合成による同化産物とによって決まることから, 本報ではそれぞれの指標となる茎葉中のNSC%と葉身窒素濃度 (N%) の動態に注目して, F_1ライスの多収性を検討した。F_1ライスの葉身中のNSC%は普通稲品種に比べて大差はなかったが, 稈・葉鞘部では顕著に高かった。各品種とも出穂後NSC%は急減したが, 普通稲品種では登熟期後半に再び高まった。これに対してF_1ライスは登熟末期まで減少を続け, その減少率も大きかった (第1図)。出穂期から登熟末期にかけてのNSC%の減少と稈・葉鞘部から子実への乾物の転流分との間には高い正の相関々係が認められた (第3図)。また, 玄米収量との間にも高い正の相関々係がみられた (第4図)。これらの結果は, 子実への転流の主体はNSCであること, 稈・葉鞘部のNSC%は玄米収量と密接な関係にあることを示し, F_1ライスの多収性は高いNSC%に負うところが大きいことが示唆された。各品種とも葉身のN%は稈・葉鞘部に比べて高く, 生育段階が進むにつれて減少した。F_1ライスの N%は葉身, 稈・葉鞘部とも普通稲に比べて低く, 減少割合も小さかった (第5図)。葉身のN%と玄米収量との間には, F_1ライスを除いた場合, 両者間に有意な正の相関々係が認められた (第6図)。以上の結果から, F_1ライスの子実生産は普通稲品種に比べて, 出穂期前に稈・葉鞘部に蓄積された炭水化物に依存する割合が大きいことが明らかになった。
著者
箱山 晋 田中 日吉 縣 和一 武田 友四郎
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.219-227, 1977-06-30
被引用文献数
19

To make clear the weed vegetation of paddy fields left off cultivation on account of government paddy acreage-control policy, the investigation were carried out in autumn of 1975. The 25 surveyed plots were located at the north-western parts of Fukuoka prefecture. Coverage and height of plants in their paddy fields were measured and Summed Dominance Ratio (SDR2), which was proposed by NUMATA, was calculated from those two factors. All the species appeared were classified into the following four plant groups from their habitat type: that is, A; perennials in lowlands, B; annuals in lowlands, C; perennials in uplands and D; annuals in uplands. And then, the relations between the SDR_2 of these plant groups and the difference of soil moisture, and years of fallow were compared with each vegetation. Results are as follow. 1. At the beginning one or two years after left off cultivation, species number and SDR_2 of annuals were dominative. With increase of years of fallow, species no. and SDR_2 of perennials became dominative. 2. In the former case, the dominant species were annuals such as Aster subulatus, Aeschynomene indica, Panicum bisulcatum, Echinochloa spp., Leptochloa chinensis, Digitaria adscendens and so on. In the latter case, they were perennials such as Aliscanthus sinensis and Solidago altissima under upland condition, or Isachne globosa, Phragmites communis, Leersia japonica and Paspalum distichum under lowland condition. 3. The vegetation consisting of four groups were largely affected by the difference of soil moisture and years of fallow. The vegetation of paddy fields left off cultivation for many years were mostly composed by the specics of C group under upland condition and by the species of A group under lowland one. On the other hand, that of paddy fields left off cultivation for few years were composed by the species of D group under upland condition and by the species of B group under lowland one, although the relationships were not so clear as in the former. 4. The increase of number of species and SDR_2 of perennials were controlled by means of managing methods such as plowing, cutting of weeds and herbicide application. The repressive effects of management against weeds varied depending on the kind of managements and the characteristics of weed species.
著者
松田 義信 窪田 文武 縣 和一 伊藤 浩司
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.150-156, 1991-04-30
被引用文献数
7

トウモロコシを対照作物に用いて,ネピアグラス個体群における超多収性要因を解明した。1.ネピアグラスは,生育初期段階(植え付け-6月)では,茎数の増加が顕著であり,植え付け後23日には茎数密度は約100本/m^2に達した。茎葉は水平方向に伸長し,LAIが低い生育段階における光利用効率を高める受光態勢となった。2.生育中期段階(7月-8月)になると,自己間引きにより茎数が急激に減少し,約25本/m^2となったが,夏季高温下で葉の展開速度が速まり,高い葉面積指数(LAI=13.3)の個体群が形成された。この間,茎葉の伸長が水平方向から垂直方向に変わるため,吸光係数(K)が低下する等,群落構造に変化が起こり,個体群は長期間,高NAR(純同化率)を維持した。CGR(個体群生長速度)の最大値は,53.3g/m^2/dayであった。3.生育後期段階(9月-11月)では,群落下層部葉の枯死が増加するが,1茎当りの出葉数が多いためLAIは高い状態に維持された。4.トウモロコシに比較して,ネピアグラスの群落構造は極めて柔軟性に富み,いずれの各生育段階での光利用効率が高いため,物質生産能力が高まり,最終収量ではトウモロコシの2倍の値(4.4kg/m^2)となった。