著者
武市 周作
出版者
沖縄大学
雑誌
地域研究 (ISSN:18812082)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.197-204, 2006-03-31

本件は、沖縄戦で家族などを失うなどした沖縄県出身者や沖縄在住の宗教活動を行う者が、小泉純一郎内閣総理大臣による靖国神社参拝(2001年8月13日および2002年4月21日)に対して、参拝行為が日本国憲法の規定する政教分離原則に違反し、また、参拝によって、原告らの政教分離を厳格に求める法的権利、信教の自由、思想信条の自由、平和的生存権が侵害され、精神的苦痛を被ったとして、民法709条および国家賠償法1条1項に基づいて損害賠償請求を提起した事件である。小泉首相による靖国神社参拝に対する訴訟は、全国で提起された(東京、千葉、大阪、松山、福岡、沖縄)が、なかでも沖縄靖国訴訟は、唯一の地上戦を経験した地において提起されたもので、靖国神社の歴史的な経緯などからみても、特別の意味を持つものであるとして注目を浴びてきた。原告が主張する法的利益侵害も、沖縄戦を経験した者であるからこその視点も含まれており、その意味で、本判決を考察することは地域研究にとって重要な意味を持つ。ただし、その際、靖国神社成立の歴史的経緯や、参拝の政治的・社会的意味については極力触れず、那覇地方裁判所の法的論理について評釈するにとどめた。