著者
武田 健
出版者
東京理科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

ナノマテリアルは電子材料や化粧品、塗料等様々な製品に汎用されており、今や現代の生活に欠かせないものとなっている。本研究では化粧品に用いられているナノマテリアルの皮膚透過性に関して、信頼性の高い知見を加えることを目的とし、酸化チタン微粒子と単分散モデルである金ナノ粒子を用い、in vivoでマウスにおける皮膚透過性を検証した。健常皮膚だけでなく、炎症皮膚、アトピー性皮膚炎発症皮膚を作成し、その皮膚に対して酸化チタン微粒子および分散性の高い金ナノ粒子、蛍光物質(FITC)を結合させた金ナノ粒子を24時間曝露した。粒子を曝露した皮膚組織の電子顕微鏡観察結果から、酸化チタン微粒子および金ナノ粒子は角質層内部に局在することが明らかになった。また、FITCが結合した金ナノ粒子を曝露した皮膚組織に関しては蛍光顕微鏡観察し、粒子が皮膚表層や毛包内部に局在すること、炎症により表皮を欠損した皮膚部位においては粒子が真皮層内部に侵入することを捉えた。また、真皮層内への粒子透過が確認された炎症皮膚に対して金ナノ粒子を24時間曝露し、その個体の血液内金質量をICP-MSによって測定したが、検出可能範囲内での粒子透過は見られなかった。これらのことからナノ粒子が健常皮膚を透過し、全身循環へ移行する可能性は極めて低いことが示唆された。角質層が剥がれるような皮膚の状態では、ナノ粒子が皮内に透過することが認められた。以上の結果、化粧品中のナノ粒子は健常人の皮膚では健康影響はほとんどないと考えられるが、損傷した皮膚への塗布には注意が必要でることが示唆された。定量的な研究が残されているが、妊娠期に皮下投与した酸化チタンナノ粒子が産仔脳神経系に影響を及ぼす結果を得ており、社会的に極めて意義の高い研究となった。