著者
武部 裕光
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.252-262, 1980 (Released:2010-10-28)

除脳ネコにおいて下顎を他動的に開口させると, 反射的に舌の後退が認められる。この顎舌反射の機構を, 閉口筋及び外舌筋の筋電図により検索し, 次の結果を得た。1) 側頭筋を側頭骨付着部より剥離すると, 開口により誘発される同側茎突舌筋の筋電図活動は消失した。又, 側頭筋を選択的に伸張する事により顎舌反射が誘発された。2) 咬筋神経切断, 顎関節嚢の麻酔は顎舌反射に何ら影響を及ぼさなかった。3) 顎舌反射は10度以上の開口により誘発されたが, これは側頭筋の伸張反射の閾値より十分大きかった。4) 側頭筋神経を100Hzで電気刺激すると, 同側茎突舌筋に筋電図活動が誘発されたが, このときの閾値は側頭筋神経の最も低閾値の線維の1.3~1.7倍であった。5) 下顎に振動刺激を与えると頻度が130Hz以下で茎突舌筋に筋電図活動が誘発されたが, それ以上の頻度の刺激では誘発されなかった。6) 三叉神経中脳路核への入力系路を遮断すると, 同側の茎突舌筋の筋電図活動は消失した。以上の結果より, 顎舌反射は主として側頭筋中の伸張受容器, 恐らくはゴルジ腱器官の興奮により誘発されること, 及びその反射経路としては中脳路核を経由することが明らかになった。