著者
Kouichi Shiozawa Kaoru Kohyama Keiji Yanagisawa
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.59-63, 2003-04-20 (Released:2010-06-11)
参考文献数
12
被引用文献数
23 27

食品咀嚼時の嚥下誘発にかかわる食塊物性をより詳しく調べるために, 咀嚼の中間期 (M), 嚥下直前 (L) および嚥下までの咀嚼回数の20%余計に咀嚼したとき (+20%) の食塊をそれぞれ口腔内から回収し, その物性をテクスチャー測定した. 11名の成人被験者にモチ (RC), ピーナッツ (P) およびハードビスケット (HB) を咀嚼させた. 食塊の硬さはいずれの食品咀嚼でも嚥下直前には有意に減少したことから, 食塊の硬さの減少は嚥下誘発の直接要因ではないものの, 重要な役割を果たしていることが示唆された. PおよびHB食塊では嚥下直前には付着性は最大値を示し, また凝集性も増大した. これに対しRC食塊では, 凝集性は変化しなかったが付着性は有意 (p<0.001) に減少した. これらの結果から, 硬く破砕しやすい食品咀嚼では1つにまとまった食塊が形成された時点で, 一方, 付着性に富む食品咀嚼では食塊の付着性の程度が嚥下閾値まで減少した時点で, 嚥下が誘発されることが示唆された.
著者
小沢 幸重 三島 弘幸 寒河江 登志朗 奥田 綾子
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.31-40, 1988-02-20 (Released:2010-06-11)
参考文献数
32

トガリネズミ (食虫類) の歯の構造と着色について検討した。着色は, 各歯の接触面のエナメル質, 即ち上顎では口蓋側面, 下顎は唇側および頬側面にある。着色は, 齧歯類の切歯と同様にエナメル質への鉄の沈着によるものであるが, 歯列弓の歯のすべてに認められる。着色エナメル質は最大でエナメル質全層の表面側2/3~3/4層におよびその下層は無着色エナメル質である。鉄の含有量はSEMの非分散型定量分析では約8% (重量比) である。トガリネズミのエナメル質は, 細管エナメル質と無細管エナメル質無小柱エナメル質と有小柱エナメル質の4組織を持っている。エナメル細管はほぼエナメル質の全領域に認められるが, 着色エナメル質には非常に少なくほぼ無細管の状態である。エナメル小柱は, 比較的単純なコースをエナメル象牙境からエナメル質表面まで走向するが, 非常に薄い咬頭間領域のエナメル質では認められない。シュレーゲルの条紋は観察されないが, 無着色エナメル質のエナメル小柱は小柱問エナメル質を狭むようにして平行に配列する。エナメル小柱の直径は, 約3 μmである。エナメル細管は屈曲走行し, 象牙細管に連続する。以上の構造のいくつかは, 初期哺乳類の構造と一致するものであり, 下等な哺乳類と高等な哺乳類の移行的構造であろう。象牙質は管周象牙質が発達し, セメント質は非常に薄い。
著者
後藤 仁敏 井上 孝二
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.667-688, 1979 (Released:2011-08-10)
参考文献数
46
被引用文献数
1 1

西アフリカのマリ共和国において, 新生代第三紀始新世の地層から発見された, 化石全骨魚類のピクノドゥス類に属する魚の鋤骨一口蓋骨歯について, 歯の形態と配列状態に関する肉眼的観察, 研磨標本の光学顕微鏡的観察, マイクロラジオグラフィー, 走査電子顕微鏡的観察, および粉末試料のX線回折などの方法により, 歯を構成する硬組織の性質を検索した。鋤骨一口蓋骨の下面に歯はトウモロコシ状に, かなり不規則ではあるが11の歯列をなして配列している。歯の硬組織は, おもにリン灰石からなる鉱物質によって構成され, 厚い外層 (エナメル質) とその下の薄い内層 (象牙質) からなり, 内層は歯の辺縁部で下方に細長く突出しており, 本来の歯髄腔は骨組織によってみたされている。歯の外層は, X線透過度の低い高度に石灰化した硬組織で, 内層から連続する細管によって貫かれ, 深層部では叢状に密に交錯する結晶の束からなるが, 表層部では結晶が歯表に直角方向に平行に配列する状態に移行している。酸で脱灰すると外層の硬組織は溶解消失するが, 細管構造は残存してヘマトキシリンに染色される。歯の内層は, X線透過度の比較的高い層で, 脱灰標本ではヘマトキシリンに染色され, 象牙細管の存在する領域と, その周囲をとりまく線維骨様組織から構成されており, 前者の直下には分断された小さな歯髄腔が存在しているが, 後者は本来の歯髄腔をみたす骨組織に移行している。歯の外層と内層との境界は明瞭であるが, 歯の内層と周囲の骨組織とは移行的で, 歯は骨組織と骨性結合により固く支持されている。このような歯の配列状態, 組織構造, 支持様式は, この魚がピクノドゥス類のなかでも, 有殻軟体動物食に著しく適応した仲間であったことを, 示すものである。
著者
Takeshi Odajima Mihoko Onishi
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.297-303, 1997-08-20 (Released:2010-06-11)
参考文献数
22
被引用文献数
1 4

ミエロペルオキシダーゼの触媒作用によって, 弱アルカリ性の溶液中で, エピネフリン, (R) -4- [1-hydroxy-2- (methylamino) ethyl] -1, 2-benzenediol, からアドレノクローム, 2, 3-dihydro-3-hydroxy-1-methyl-1H-indole-5, 6-dione, が生成されることを吸収スペクトルの測定と薄層クロマトグラフィーを用いて証明した。このアドレノクロームの生成反応はエピネフリンのo-セミキノンと考えられるフリーラジカルをもつ短寿命の中間体を経由して進行していることが電子スピン共鳴 (ESR) スペクトルの観測から証明された。このミエロペルオキシダーゼによって生成されるアドレノクロームの生体内の役割として, 創傷, 炎症の場において, ラジカル重合によって止血し, 痂皮形成を促し, 病巣を速やかに治癒させることによって, 生体を防御している可能性が考えられた。
著者
杉原 邦夫 山本 隆 河村 洋二郎
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.463-468, 1977-09-30 (Released:2010-10-28)
参考文献数
3

ラットを用い, 各種界面活性剤, ならびに, これらの界面活性剤を配合したモデル処方歯磨の味覚に対する作用を, 電気生理学的手法により検討した。蕉糖脂肪酸エステル (SE) それ自身では鼓索神経に著明な反応を生じさせず, また, 四基本味質の反応に対しても何ら影響をおよぼさなかった。ラウロイルサルコシンナトリウム (LS) 自身による神経反応はラウリル硫酸ナトリウム (SLS) と類似していたが, 弱く, SEと等モル混合することによりさらに減弱した。四基本味質反応に対する抑制作用もLSはSLSより弱く, 回復性の早いものであり, SEとの混合によりその作用は減弱した。SEおよびLSを配合したモデル処方歯磨の作用はSLSを配合したものに比べ, 四基本味質反応に対する抑制作用は弱く, 回復性の早い作用であり, 味覚への影響は少ないものと考えられる。
著者
藤原 秀樹
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.495-508, 1990-10-20 (Released:2010-06-11)
参考文献数
37
被引用文献数
7 7

離乳後の幼若動物にとって咀嚼は口腔からの求心性刺激を豊富にもたらし脳発育を促進することが知られている。しかし, 咀嚼により脳発育が促進されるという組織学的証明はなされていない。さらに脳の生後発育に及ぼす咀嚼の影響に関する研究報告も少ない。本研究では, これらの点を明らかにするために, 一側の歯牙を2週齢目に摘出した片側咀嚼ラットを用いて, 咀嚼による脳発育の左右差を組織学的に検索し, さらに固形食群と粉末食群飼育ラットの迷路学習の成績を比較検討したものである。組織学的研究において, 4週齢片側咀嚼ラットの大脳の細胞分布密度に明らかな左右差が認められた。迷路学習においては, 4週齢ラットでは, 有意な差は認められなかったが, 8週齢ラットでは, 固形食群の方が優れていることがわかった。以上の結果から, 咀嚼に随伴する刺激が減少すると, 脳発育が遅延することが明らかとなり, 咀嚼の重要性が確認された。
著者
佐藤 律子 片桐 史子 石井 馨 片桐 正隆
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.72-82, 2001-02-20 (Released:2010-06-11)
参考文献数
28

エナメル質の斑状白濁は, 歯のフッ素症 (斑状歯) と初期齲蝕に共通な臨床的特徴であるが, 前者は酸に抵抗性を示す。本研究は斑状歯について, 齲蝕歯と埋伏歯を対照歯とし, 0.1N塩酸による脱灰処理前後のエナメル質の構造と質を肉眼像, SEM像やCMR像によって比較し, 酸に対する抵抗性の違いを検索することを目的とした。SEM像によると, 対照歯のエナメル小柱上面観は規則正しく魚鱗状に配列し, 小柱間隙は酸に強く脱灰され幅が広く, 割断面での最表層の無小柱エナメル様の部分は粗 であった。斑状歯では, 小柱体が不規則な配列で毛様に残存し, 小柱間隙は狭く, 割断面では比較的平滑であった。CMR像では, 表層の高石灰化層にさらに著しい石灰化の部分が点在していた。以上から, エナメル小柱の構造が酸による脱灰に抵抗していると考えられた。なお, 歯のフッ素症患者の生活環境水中のフッ素の定量分析の結果では6.1-6.7ppmで, 本症の重要な発現因子と考えられた。
著者
米田 政明 大泰司 紀之
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.134-140, 1981-03-20 (Released:2010-10-28)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

ヒグマでは中間位の前臼歯に高い欠如率が見られるが, ツキノワグマでは欠如率は低い。この2種の前臼歯欠如率を比較し, クマ科における歯数減少傾向問題について検討を行なった。材料として北海道産ヒグマ151例, 本州産ツキノワグマ36例を用いた。前臼歯の欠如は肉眼的観察によったが, 存在する場合をさらに正常, 破折, 歯槽骨による包埋に分けた。また, 犬歯歯根セメント層板により年齢査定を行ない, 前臼歯の欠如率, 破折・包埋率の加齢変化を検討した。その結果, 前臼歯の先天的欠如率はツキノワグマにくらべヒグマが有意に高いこと, 破折・包埋前臼歯の出現率がツキノワグマ, ヒグマとも加齢に伴って増加することが明らかになった。両種の前臼歯欠如率の差は, クマ科の系統・進化の方向を示しているものと考えられた。
著者
武部 裕光
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.252-262, 1980 (Released:2010-10-28)

除脳ネコにおいて下顎を他動的に開口させると, 反射的に舌の後退が認められる。この顎舌反射の機構を, 閉口筋及び外舌筋の筋電図により検索し, 次の結果を得た。1) 側頭筋を側頭骨付着部より剥離すると, 開口により誘発される同側茎突舌筋の筋電図活動は消失した。又, 側頭筋を選択的に伸張する事により顎舌反射が誘発された。2) 咬筋神経切断, 顎関節嚢の麻酔は顎舌反射に何ら影響を及ぼさなかった。3) 顎舌反射は10度以上の開口により誘発されたが, これは側頭筋の伸張反射の閾値より十分大きかった。4) 側頭筋神経を100Hzで電気刺激すると, 同側茎突舌筋に筋電図活動が誘発されたが, このときの閾値は側頭筋神経の最も低閾値の線維の1.3~1.7倍であった。5) 下顎に振動刺激を与えると頻度が130Hz以下で茎突舌筋に筋電図活動が誘発されたが, それ以上の頻度の刺激では誘発されなかった。6) 三叉神経中脳路核への入力系路を遮断すると, 同側の茎突舌筋の筋電図活動は消失した。以上の結果より, 顎舌反射は主として側頭筋中の伸張受容器, 恐らくはゴルジ腱器官の興奮により誘発されること, 及びその反射経路としては中脳路核を経由することが明らかになった。
著者
千葉 有 渋澤 洋子 五十嵐 治義 大野 朝也
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.91-101, 2000

ラックカイガラムシより分泌される樹脂状物質はセラックと呼ばれ, 各種工業製品や食品の光沢剤として広く利用されている。本研究では, セラックが形成する被膜は耐酸性に優れ, 毒性がないとされることから, セラックで歯牙の表面をコーティングした場合の歯垢付着抑制効果と, う蝕抑制効果を塩化セチルピリジニウム (CPC) を併用した場合も含めて動物モデルを用いて検討した。その結果, 0.5%セラックの単独薬液および0.2%または0.5%セラックとCPCを併用した薬液では歯垢の付着抑制効果が, 0.5%セラックとCPCを併用した薬液ではう蝕抑制効果が, それぞれ歯種によっては認められた。<BR>以上よりセラックの長期投与は, 歯垢の付着抑制に有効であることが示唆された。一方, う蝕抑制効果についてはセラック単独では抑制力は低いが, CPCの作用を著しく増強させることが示唆された。
著者
五十嵐 治義 佐藤 陽子 浦井 仁子 滝田 芳子 遠藤 初恵 浜田 節男 川崎 徹
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.238-245, 1980

benzoic acidとphenylacetic acidにγ-dialkylamino-β-hydroxypropyl (〓) を導入してesterificationした化合物10種を新たに合成し, それらの抗炎症作用始め腸管作用, 鎮痛作用などの薬理作用に, かなりの活性を有することについてすでに報告した。今回は, これら新化合物の化学構造と局所麻酔作用との相関性を検索することを目的として, 家兎による表面, 浸潤麻酔作用などの検定を行なった。その結果, 全化合物とも, 表面麻酔作用よりも浸潤麻酔作用の持続時間が長かった。また, alkylbenzoate誘導体 (II群) が, alkylphenylacetate誘導体 (I群) よりも表面, 浸潤麻酔作用とも持続時間の延長が認められた。一方, 麻酔導入においては, II群がI群よりもsharpであり, 消失し始めから完全に消失するまでの麻酔作用凝陽性の過程は両群とも優位の差は認められなかった。両群間の種々な作用における差異について, 立体分子モデルを用いて, 立体構造的および電子論的考察を加えた。すなわち, II群がI群よりも, 化学的, 立体構造的に安定性が大であること, また, receptorとの親和性が強いことなどが推論された。一方, 毒性面からこれらの化合物は, 普通薬に属していると思われる。
著者
渡邉 麻子
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.241-248, 1998-08-20 (Released:2010-06-11)
参考文献数
38
被引用文献数
1

法医実務において, 死体の個人識別に伴う, 性別, ABO式血液型の特定は最も基本的な作業である。近年, それらの作業にDNA分析が取り入れられ, PCR法の応用が主流となりつつある。特に歯は保存性の高さからDNA抽出源として重要性を増している。本研究では髄壁象牙質に残った髄壁細胞からDNAを抽出し, PCR法による性別判定およびABO式遺伝子型判定を試みた。神奈川県在住の患者から抜歯された性別既知の40歯を用いたところ, 性別は抜去歯すべてにおいて正確に判定された。またABO式遺伝子型は, 40歯中35歯の判定が可能であった。遺伝子頻度は, A (p); 0.443, B (q); 0.214, そしてO (r); 0.343であり, 日本人の平均遺伝子頻度に比べ, r遺伝子が低い傾向を示したが, PCR法で判定不可能であった5歯について, 歯髄を用いた解離試験の結果 (すべてO型) を参考にすれば, ほぼ平均的な遺伝子頻度となり, 分析結果の確実性を証明した。
著者
會本 弘一郎 田松 裕一 井出 吉信
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.213-224, 2000-06-20 (Released:2010-06-11)
参考文献数
60

上顎骨を中心とする顔面頭蓋における外面緻密質の局所的な縦弾性係数を測定するとともに, 組織構造との関係を考察した。成人男性乾燥頭蓋骨において, 眼窩周囲, 梨状口周囲, 頬骨下稜, 犬歯窩, 歯槽突起の5カ所の測定領域を設定し, 各部位から微小試験片を採取して3点曲げ試験を行い, 試験後に顕微鏡にて試験片表面を観察した。縦弾性係数の値は, 眼窩周囲の辺縁方向 (M) で11.9±3.9GPa, 直交方向 (P) で9.0±3.3GPaであった。同様に, 梨状口周囲は12.6±4.1GPa (M), 10.4±3.2GPa (P), 頬骨下稜部は14.8±3.4GPa (M), 7.2±2.8GPa (P) であった。犬歯窩は, 上下方向 (V) が11.9±3.3GPa, 水平方向 (H) が10.8±3.7GPaであった。同様に, 歯槽突起は9.2±4.1GPa (V), 7.6±4.3GPa (H) であった。顕微鏡による観察では, 値が大きい部位では層板構造が明瞭で密な骨構造を呈し, 値が小さい部位では層板構造は不明瞭で空孔に富む粗槌な構造を呈していた。
著者
仲村 昌温
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.505-518, 1987-10-20 (Released:2010-06-11)
参考文献数
23
被引用文献数
2 2

アクリル樹脂注入法によってネコの顔面動脈について観察調査した。舌動脈と後耳介動脈の両起始の間で外頸動脈から派出していた。またまれに後耳介動脈の遠位で, 外頸動脈が2終枝分岐の直前からや, 浅側頭動脈から起始していた。外頸動脈から起始した顔面動脈は咬筋停止部の内側を前走して, 顎舌骨筋の後外側端に達し, そこでオトガイ下動脈を派出したのち, 下顎骨の顔面血管切痕を越えて顔面に出て咬筋前縁を前上方に走り, 口角の後方で下唇動脈と上唇動脈の2終枝に分岐していた。顔面動脈の分枝には, 茎突舌筋枝, 顎二腹筋枝, 下顎腺枝, 下咬筋枝, 翼突筋枝, 上行口蓋動脈, 前咬筋枝, オトガイ下動脈, 皮枝, 下顎縁枝, 頬枝が認められた。他の哺乳動物について比較解剖学的にみると, ネコの顔面動脈はカイウサギのそれとは異な凱イヌのものと起始様相, 走行, 分枝, 分布域において類似しているといえる。
著者
蔵前 勝彦
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.341-356, 1989-08-20 (Released:2010-06-11)
参考文献数
15
被引用文献数
7 7

本研究はアクリル樹脂注入法によってラットの各種糸状乳頭の微細血管構築の様相を観察し, 乳頭の分類に寄与した。ラットの糸状乳頭をKutuzov et al. (1951) は, simple conical papillae, giant conical papillae, true filiform papillaeの3型に分類した。本論文ではsimple conical papillaeはtype I, IIおよびdigitiform papillaeに分類し, 同様にgiant conical papillaeとtrue filiform papillaeの中間型として, forked filiform papillaeを分類して先人らの分類型に追加した。True filiform papillaeの毛細血管ループは最も単純なヘアピン形態をとっていた。Simple conical papillaeのtype I, type IIおよびdigitiform papillaeのそれぞれの毛細血管ループは基本的には類似していたが, Type IIのループは2または3本の上行脚を有し, 3種のうちもっとも複雑であった。Giant conical papillaeの毛細血管ループは3~5本の上行脚が乳頭の咽頭側面を上行し, 下行脚は舌尖側面を下行しており, 両脚はいずれも別々にループを形成していた。以上の観察結果から, ラットの各種糸状乳頭は乳頭内毛細血管構築の形態的差異によって6分類することができた。
著者
村上 守良 六反田 篤 伊東 励
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.169-176, 1979 (Released:2010-10-28)
参考文献数
15

彎曲徴について, 臨床上ならびに歯の解剖学上有効な指針を得るために, 下顎右側の中切歯, 側切歯および犬歯の歯冠長を12等分し, Contracerを用いて歯軸に直交する各断面の輪郭と切縁観輪郭における彎曲徴を角度的に観察した。次のような結果が得られた。1.切縁観輪郭では, 下顎中切歯および下顎側切歯には彎曲徴は認められない。下顎犬歯は明らかに彎曲徴が認められる。2.歯冠各部の輪郭では, 下顎中切歯で切縁側1/4の領域に, 下顎側切歯で切縁側2/3の領域に, 下顎犬歯で尖頭より3/4の領域にそれぞれ明らかに彎曲徴が認められる。3.下顎中切歯において切縁側1/4の領域で明らかに彎曲徴が存在することは他の要素と合わせて左右側鑑別の一助となし得る。
著者
尾之上 さくら 橋本 修一 今井 敏夫 丹羽 源男
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.570-585, 1999-12-20 (Released:2010-06-11)
参考文献数
41
被引用文献数
2

アルカリ性ホスファターゼ (ALP) は, 細胞表面のグリコシルホスファチジルイノシトール (GPI) アンカー型タンパク質の一つであり, 骨芽細胞の石灰化と密接に関わっている。本研究では骨芽細胞様細胞株MC3 T3-E1のALP活性量におよぼす培養環境の影響を明らかにするため, この細胞をさまざまな播種密度と継代頻度で培養した。MC3T3-E1細胞を6, 500cells/cmcm2の播種密度で週1回継代培養すると, 130日以上たってもこの細胞 (W1/HD) は高いALP活性と石灰化能を保持していた。しかし1, 300cells/cmcm2の播種密度で, 週2回継代培養すると, この細胞 (W2/LD, W2/HD-LD) は培養50日以内にもとの細胞のもつALP活性と石灰化能のいずれも90%以上を失ってしまっていた。これら形質変化した細胞を130日間培養すると, ALP活性とコンフルエント時の敷石状形態を失ったW2/LDやW2/HD-LD細胞の細胞集団倍加時間とタンパク質生成能はいずれもW1/HD細胞の場合に比べてそれぞれ有意に短くまた低くなった。一方, W2/LDとW2/HD-LD細胞ではもう一つのGPI-アンカー型タンパク質である5'-ヌクレオチダーゼの活性もALP活性の場合と同様にW1/HD細胞の酵素活性の1/10以下にまで減少していた。しかしW2/LDやW2/HD-LD細胞の酸性ホスファターゼとβ-グルクロニダーゼ活性はW1/HD細胞に比べ逆に有意に増加していた。培養環境により誘導されるこれら細胞の形質変化は, 培養した培地中の生物学的因子や電離放射線の照射に起因するものではなかった。これらの結果から, MC3T3-E1細胞は高頻度・低密度の播種による継代培養を行うと, MC3T3-E1細胞の骨芽細胞様の特性からGPI-アンカー型酵素活性と石灰化能が特異的に失われることが示唆された。
著者
原田 吉通 冨野 真悟 小川 和久 和田 忠子 森 進一郎 小林 繁 清水 徹治 久保 博英
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.13-18, 1989-02-20 (Released:2010-06-11)
参考文献数
16
被引用文献数
1

昭和53年から昭和61年までの9年間に放射線学実習で撮影された平均年齢24.3歳の男女1,353人の全顎デンタルX線写真のうち小臼歯部を目的としたものと大臼歯部を目的としたもの及びパノラマX線写真を使用し, 下顎第一大臼歯の3根の出現頻度について調査した。結果は次の通りである。1. 3根は右側歯数1,163本中240本 (20.6%), 左側歯数1,168本中200本 (17.1%) であった。2. デンタルX線写真による歯根数の確認は, 小臼歯部目的の写真のみで3根の確認できたもの274本 (11.8%), 小臼歯部ならびに大臼歯部目的の写真のいずれでも確認できたもの124本 (5.3%), 大臼歯部目的の写真のみで確認できたもの42本 (1.8%) であった。3. パノラマX線写真で3根の確認できたものは, 440本中70本 (15.9%) であった。4. 左右両側に第一大臼歯の存在している人1,070人のうち, 両側共3根の人は136人 (12.7%), 片側のみ3根の人は127人 (11.9%) であった。
著者
内田 憲二 宮本 武典 佐藤 俊英
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.56-66, 2000-02-20 (Released:2010-06-11)
参考文献数
21

無麻酔・無拘束下のウサギのリズミカルな咀嚼運動に対する嚥下の影響を調べた。咀嚼時と嚥下時に下顎運動軌跡と咬筋, 顎二腹筋, 甲状舌骨筋の筋電図を記録した。固形飼料の咀嚼運動中の嚥下の影響は5つのタイプに分類される。 (1) 嚥下が下顎運動の開口相に影響し休止期を示すもの (OPタイプ), (2) 閉口相に影響し休止期を示すもの (CLタイプ), (3) 閉口相と開口相の両方に影響し休止期を示すもの (CL/OPタイプ), (4) 閉口と開口の両相に対して影響しないもの (Non-influタイプ), (5) 不十分な閉口相を引き起こし, 長い休止期の後に開口相に移行させるもの (Pタイプ)。観察された嚥下の52%がOPタイプ, 26%がCLタイプ, 12%がCL/OPタイプで10%が他のタイプであった。CLタイプとCL/OPタイプでの閉口相の変調は, 固形飼料の咀嚼中歯根膜からの入力による咬筋活動の抑制に関与し, OPタイプとCL/OPタイプでの開口相の変調は, 咽頭性入力による顎二腹筋活動の抑制に関与すると結論できる。