著者
水上 拓哉
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第34回 (2020)
巻号頁・発行日
pp.4N2OS26a03, 2020 (Released:2020-06-19)

本発表では、ソーシャルロボットの倫理を基礎づけることを目的に、その道徳的行為者性をどのように理解するべきかという概念工学的な問いに取り組む。メディアの等式が示唆してきたように、ソーシャルロボットにおいてはユーザ側の感情や想像力の存在を無視することはできない。最近では、ロボットの道徳的身分をユーザとの関係性の中に見出そうとする立場もあり、これは関係論的転回と呼ばれている。中でもCoeckelberghはこのアプローチの延長線上で「仮想的行為者性」という概念拡張を試みている。しかし、このような拡張は、既存の道徳的責任の帰属という観点では混乱をもたらしてしまう。そこで本発表では、道徳的行為者性の関係論的な拡張を批判的に検討しつつ、代替案を示唆する。具体的には、ロボットに対する感情をフィクション感情のパラドックスに接続したRodognoの議論をもとに、関係論的に見いだされる行為者性を既存の行為者性と区別する。ソーシャルロボットに道徳的行為者性を帰属させようとするユーザの心的傾向をフィクション論の枠組みで捉え直すことで、人間がこれまで行ってきた責任帰属の実践の構造を保つことが可能になる。