著者
水澤 一樹
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第30回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.70, 2011 (Released:2011-08-03)

【目的】大腿骨近位部骨折(PFF)は転倒による受傷が大半を占め,再転倒による再受傷も多い.そのためPFF患者において転倒リスクの評価は重要と考えられ,PFF患者においてTimed “Up & Go” Test(TUG)は,6カ月以内の転倒予測に役立つとされる(Kristensenら,2007).なお「測定値=真の値+誤差」であるため,評価を行う際はその評価方法の信頼性が重要となる.これまでTUGの再検査信頼性については,様々な対象において報告されているが,PFF患者における報告は少ない.なお信頼性の指標としてはShroutら(1973)の級内相関係数(ICC)が用いられることは多いが,ICCは相対信頼性であり,測定値が含む誤差の種類や量は不明である.そのため本研究の目的は,PFF患者におけるTUGの再検査信頼性について,相対信頼性のみではなく,絶対信頼性とともに検討することとした. 【方法】対象は歩行が可能なPFF患者17名(男性3名,女性14名)とし,年齢は79.4±9.4歳であった.対象には,あらかじめ研究内容について十分に説明を行い,書面にて同意を得た.TUGはPodsiadloら(1991)の原法に従い,受傷後51.6±20.4日目に初回,初回から1週間後に2回目を実施し,各日3回ずつ1名の理学療法士によって測定された.相対信頼性の指標はICC,絶対信頼性の指標は測定標準誤差(SEM)とし,いずれも95%信頼区間(95%CI)まで求めた.まず本研究における検者内信頼性を検討するため,ICC(1,1)を求め,目標のICC値を0.70として,Spearman-Brownの公式から必要な測定回数(k)を求めた.その後にICC(1,k)を求め,目標値である0.70以上の値が得られていることを確認した.そして最後に両測定日におけるk回の平均からICC(1,1)とSEMによって再検査信頼性を検討した.すべての解析にはR2.8.1(Free software)を使用した. 【結果】本研究における検者内信頼性はICC(1,1)が0.98(95%CI:0.97-0.99),SEMが1.71(95%CI:1.47-2.05)であった.Spearman-Brownの公式からk=0.04となり,必要な測定回数は1回と推定された.そのため,両測定日における1回目,2回目,3回目の測定を対象として再検査信頼性を求めると,ICC(1,1)は1回目が0.92(95%CI:0.81-0.98),2回目が0.98(95%CI:0.94-0.98),3回目が0.98(95%CI:0.94-0.99),SEMは1回目が3.67(95%CI:2.74-5.59),2回目が1.99(95%CI:1.48-3.02),3回目が2.00(95%CI:1.49-3.04)であった. 【考察】PFF患者に対してTUGを実施する場合,ICCの結果から再検査信頼性は十分に高いと考えられた.しかし範囲制約性の問題があるため,他の報告とICCの結果を比較する場合にはSEMを含めて判断しなければならない. 【まとめ】PFF患者17名を対象とし,TUGの再検査信頼性について検討した結果,他疾患者と同様に高い信頼性が確認された.