著者
藤澤 秀樹 千見寺 徹 水谷 正彦 土屋 信 橘川 征夫
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.23, no.7, pp.1928-1931, 1990-07-01
被引用文献数
6

症例は44歳.主訴は右下腹部の腫瘤と疼痛.来院時体温38.0℃,白血球15,300,CRP6(+).腫瘤は7×7cm,平滑,弾性軟で可動性はなかった.同部に圧痛とブルンベルグ徴候を認めた.虫垂炎による腫瘤形成と診断し,抗生剤の使用により症状は改善した.画像診断,内視鏡検査でも虫垂炎による腫瘤形成との考えと矛盾はなかった.虫垂切除をおこなった.虫垂は5.5cm,根部を除きほぼ全体に硬く腫大し,割面では壁の著明な肥厚を認めた.組織学的には固有筋層より漿膜下層にかけて子宮内膜腺および間質の増生と漿膜下脂肪織内に巣状の出血と強い炎症性細胞浸潤を認めた.一方粘膜面は比較的正常であった.手術後の病歴再聴取により,右下腹部痛にて発症したこと,嘔気,嘔吐がなかったこと,発症が生理時にほぼ一致していたことなど,虫垂子宮内膜症を示唆する症状を得た.子宮内膜症は増加しているといわれ,虫垂炎の診断にあたっても,常に本症も念頭におく必要があると考えられた.