著者
水野 澄子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.37, 2023-02-01 (Released:2023-02-01)

今月はDXについて考えてみたいと思います。皆様もご存じのように,いろいろな分野に広くDXが進められてきています。世の中の変革がコロナ渦の影響もあり急速に求められている現在,最近よく目にするDX(Digital Transformation)について何故求められているのか学術分野の状況を紹介しながら検証してみたいと思います。Transformationは「変容」,DXを直訳すると「デジタルによる変容」とのことからデジタル技術を用いることで,生活やビジネスが変容して行くことを一般的に示します。DXに関する厳密な定義があるわけでないですが,経済産業省では,「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」を作成しています。DXが広まっている分野は多岐にわたり,提供企業,利用企業,大学,教育機関,種々のご案内を頂戴する表題にも各種利用されています。例えば,営業DX,ファションDX,現場DX,製造DX,ペーパーレスからはじめるDX,経理DX,教育DX,DXの教科書,経営DX推進,計算物質科学とマテリアル(DX)などの表現がみられます。これほど多くの分野を網羅して,急速に動きが見られるのも,珍しい事とも感じられます。コロナの影響もあり,早い速度で,ある意味全分野において急速に進められています。今回は,その中から学術分野に特化して事例を集めてみました。この記事のまとめ開始の頃からも速度が急速に増している事もご理解下さいませ。これらを紹介し,さらに,これらを統合し,よりよい社会の実現に際し,将来の在り方を考察したい。まずは森本康彦氏(東京学芸大学)に「教育DXによる学修者本位の教育の実現と学びの質向上の取組~eポートフォリオとラーニングアナリティクスによる学びの支援~」という標題で教育DXにより,高等教育における学修者の学びがどのようにチェンジし,機関はどう支援しようとしているかについて整理し,明らかにして下さいました。つぎに竹内比呂也氏(千葉大学)「大学図書館のデジタル・トランスフォーメーションに向けて」という標題で大学図書館におけるこれまでのデジタル化,学術コミュニケーションの動向や教育研究のデジタル化の動向など踏まえながら,DXに向かう道筋を述べて下さいました。さらに関口兼司氏(神戸大学)「大学医学部におけるDX」という標題にて,大学医学部では,大学病院として診療面で,大学院医学研究科として研究面で,医学部医学科として教育面で,それぞれコロナ禍の影響を著しく受け少なからずデジタル化の変化について述べて下さいました。最後に山口滋氏(理化学研究所環境資源科学研究センター)「有機合成分野のDXは必要か?」という標題にて,医農薬品やプラスチック等,私たちの身の回りの化学品の多くは有機分子から作られている。目的の有機分子を作るために不可欠な手段として,有機合成がある。「DX」の潮流における触媒反応開発分野の変化と今後について概観して下さいました。最近考えてしまいます。情報技術も発達し,また,人の知識,知恵の発見もDXという高度な概念まで至る状況ではありますが,一方で世界情勢に目を向ければ,武力や暴力で主義・主張を通そうとする,知性や論理,道徳を軽んじる動きが依然として存在しています。研究や社会変容が進み,DXによりこの流れを何とか止められないかと思ってしまいます。人間の高い知識や叡智を駆使したいものです。本特集が皆様のお役に立てましたら大変嬉しく存じます。(会誌編集担当委員:水野澄子(主査),今満亨崇,青野正太,海老澤直美)