著者
永井 真理 木下 真里 青山 温子
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療 (ISSN:09176543)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.53-63, 2007 (Released:2007-05-15)
参考文献数
28

イラクは紛争中の状態にあり、また比較的ジェンダーバイアスが大きいとされているイスラム社会の一つである。イラクの女性保健医療従事者を、治安の安定している他国で育成することの可能性や問題点について検討するための基礎資料として、イラクにおける女性医療従事者の背景、すなわち、社会および家庭での役割や立場、キャリアに対する意識、紛争が保健情勢に与えた影響などについて調査した。治安上の理由により、イラク国内において調査を行うことができなかったため、エジプトで4週間の第三国研修に参加していたイラク人女性医師 16 名を対象に、面接調査を行った。調査対象者の多くは、同性と主に接する産婦人科・小児科などに従事していた。職場内で差別を感じることはあまりなく、大変意欲的に仕事を行っていた。結婚の際も、仕事を妨げることのない相手を選ぶ傾向にあった。また、数ヶ月以内であれば、家族と離れて国外研修に参加することにも積極的であり、家族の理解や支援も得られていた。皆、研修受入国よりも研修内容を重要視しており、受入国の宗教の違いや、イラクからの地理的な距離は、ほとんど問題としていなかった。今後必要な研修分野として彼女たちが挙げたのは、病院管理システム、看護師の意識向上を目的とした研修などであった。イスラム社会では、女性に対する医療には、女性医療従事者が必要とされる場合が多い。また、紛争の際には、女性や乳幼児が特に健康被害を受けやすい。イラク国内の治安が安定し、国内での直接支援が可能になるまでは、積極的に女性医師に対する国外研修を推進することが、国内の女性や乳幼児の健康改善につながる支援策と考えられる。