- 著者
-
永井 雅代
- 出版者
- 独立行政法人国立長寿医療研究センター
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2009
本研究は神経変性疾患の共通の病理学的特徴である、タンパク質の異常凝集体の形成に酸化ストレス、特に脂質過酸化反応が関与して神経細胞死を引きおこしていることを明らかにし、脂質過酸化反応を食品成分により抑制することで神経変性疾患の発症を予防するための基盤データを得ることを目的としている。これまでにパーキンソン病の凝集体の主要構成タンパク質であるα-シヌクレイン(Syn)に対し、ω-3不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)は、in vitroにおいてタンパク質の重合化反応を促進し、凝集体を形成、この凝集体構成タンパク質にはDHA酸化物(PRL)による修飾が生じていることを明らかにした。そして、DHAが神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞に対して濃度依存的に毒性を示し、細胞内活性酸素種の産生増加とともに、細胞内のPRL修飾タンパク質がミトコンドリア、核・膜画分でDHA濃度依存的にPRL修飾タンパク質が顕著に増加していることを報告した。さらに、α-シヌクレイン遺伝子を導入したSH-SY5Y(Syn-SH)細胞もSH-SY5Y細胞と同様にDHA濃度依存的に毒性を示した。蛍光免疫染色法による観察から、DHAを添加したSyn-SH細胞の細胞内にはSynの増加とその凝集体の形成促進が認められた。加えて凝集体形成を促進すると報告されているリン酸化Synの増加が観察された。これらの結果は、神経細胞においてDHAによる酸化ストレス亢進はSyn凝集体形成とともに神経細胞死を促進することを示している。SH-SY5Y細胞にDHAとともに食品成分を添加することでDHAによるタンパク質凝集および神経細胞死が抑制されるかどうか検討したところ、大豆イソフラボンを予め添加して培養したSH-SY5Y細胞においてSyn/DHAによる神経細胞死を抑制することが分かった。しかしながら、DHAによる神経細胞死は抑制しないことから、大豆イソフラボンは抗酸化作用とは異なる機序で神経細胞死を抑制していると考えられた。