著者
永川 桂大
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

金や銀のナノ粒子に光を照射すると表面プラズモンと共鳴し、局所的な電場が発生する。特にそのサイズに依存した光学特性が注目され、細胞内への遺伝子薬剤の送達キャリヤーあるいは腫瘍組織に対する治療ツールとしての研究が盛んに行われている。本研究は申請者がこれまでに作製してきたウイルスカプセル表面での金ナノ粒子の三次元配列化と同時に、多様なタンパク質と金属ナノ粒子の複合体形成とその応用展開を目的とした。今年度の研究実施計画は、昨年度作製した金ナノ粒子内包型ウイルス構造体の特徴に着目した。本研究で取り扱うJC virusの感染能に注目すると、ウイルスタンパク質VP1の感染能が付与された金ナノ粒子は効率よく細胞内へ導入されることが期待される。さらに金属ナノ粒子の持つ光熱変換能を利用する事で、光刺激による細胞死の誘発というがん細胞における光温熱療法への応用が可能となる。そこでVP1を用いた金属ナノ粒子内包型ウイルス構造体の作製を検討した。ウイルスタンパク質のアミノ酸残基の分布に着目すると、内側表面のシステイン残基97番目のみが溶媒と接していることが予想された。金ナノ粒子とVP1を共存条件におくことで、金ナノ粒子表面にシステインと金原子の結合に起因したVP1の集合化が観察された。VP1被覆金ナノ粒子の細胞内導入において、粒径40nmの金ナノ粒子で最も効率よく取り込まれ、細胞に強い光を照射すると金属ナノ粒子由来の熱発散によって照射スポット内における細胞死誘導が見出された。以上の結果から、ウイルスタンパク質と金属ナノ粒子の複合体は各々の特徴を組み合わせることで光温熱療法の薬剤へ応用できることを示した。本研究の成果は今後の生物医学における金属ナノ粒子の利用に有用な知見を与えるものである。