著者
永澤 桂
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.357-366, 2013-03-25 (Released:2017-06-12)

本論は,美術が家族をめぐる問題に対して,いかなる貢献ができるのかという視点から,西欧で描かれた伝統的な母子像に光をあてることにより,そこで示されたジェンダーに関する考察を目指すものである。西欧で伝統的に描かれてきた聖母子像においては,イエスや聖母マリアが人間としての身体を獲得することと,両者の間に親密な情が交わされることが結びついている。このことから,ジェンダーについての理解を深めるための題材として,母子像の鑑賞が有効性を持つと考え,その実践的な方法として,とくに身体表象について検討する。現在,家族をめぐって多様な問題が議論されているなかで,母子像の鑑賞が,多様なジェンダー観を磨くことに寄与しうる可能性を持つと考えている。結論として,ジェンダーを切り口とした母子画の鑑賞を通して,美術が人間関係,多文化・異文化理解に貢献できる営みであることを言及している。