著者
邉 英治
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

研究年度第4年目にあたる今年度は、本研究プロジェクトのとりまとめに向けて、追加的な一次史料および二次資料の収集を進めるとともにデータ分析を行い、それらをもとにして論文化及び著作化を進めた。一次史料の収集と関わっては、イギリス・エディンバラのRBSアーカイブに出張し、金融エリートとして日本の銀行業の近代化に多大な影響を与えたアレクサンダー・シャンドが、晩年に(執行)役員を務めたパース銀行の各種委員会の日誌を中心に収集した。そして、総支配人から異例の昇格を果たしたシャンドをはじめとする執行役員陣が、どのように健全性を確保しつつ、日々の産業金融業務を遂行していたか、検討を進めた。二次資料の収集と関わっては、財閥系銀行及び有力地方銀行の役員を務めた金融エリートの自伝・伝記類を中心に国立国会図書館などで収集し、日本の銀行業の近代化にどのような影響を及ぼしていたか、検討した。例えば、横浜銀行の伊原隆は、公共部門の金融と産業金融とのバランスをとることで、健全性と収益性の両立を図っていたことが明らかとなった。なお、これらの研究成果の一部は、共著書に採録される予定である。国際比較の観点からは、金融エリートの役割の日本的特徴を明らかにするため、スウェーデン金融史を専門とされるウプサラ大学のヴェンシュラーク博士と打合せを行い、スウェーデンの金融エリートとの比較分析を進めた。なお、本研究成果の一部は、国際ジャーナル(Social Science Japan Journal)に投稿済みであり、査読の結果を待っている状況である。
著者
岡田 守弘 大草 正信 高安 睦美
出版者
横浜国立大学
雑誌
横浜国立大学教育紀要 (ISSN:05135656)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.37-63, 1997-11-28
被引用文献数
1

近年の中学生・高校生の1対1の男女交際・性意識・性行動の実態とその背後にある要因との関連を明らかにすることを本研究の目的として,横浜市内公立中学校22校,横浜地域の高等学校11校に在籍する中学生・高校生を対象に質問紙調査を実施した。実施時期は1995年11月,回収数は8420部,特定の学校による分布の偏りを避けるために5038人を抽出して分析した。結果は,次の通りである。(1)1対1男女交際の経験率は学年を追って高くなり,高校3年女子では30%を超える。キス経験率は中学3年女子で2割を超え,性交経験率は高校2年女子で2割を超え,女子の性に関する経験率が男子を上回っている。(2)性的衝動には「心理愛情的」と「心理生理的」の次元があり,若者文化許容には「制止」と「風潮」の次元があり,性的衝動の高さと若者文化許容度の高さが男女交際・性行動を積極的にする。(3)中学生・高校生は同世代の愛し合っている者同士のキスや性交に対する容認率は高く,1対1の男女交際や性経験が中学生・高校生にとって「あたりまえ化」し,「日常化」しているが,一部の突出した部分に幻惑されずに彼らのけじめ感覚を理解することが大切である。
著者
一柳 廣孝 栗田 英彦 菊地 暁 吉永 進一 石原 深予
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

日本心霊学会は、1910年前後から20年前後まで活動した、当時最大規模の霊術団体のひとつである。その日本心霊学会の機関誌である「日本心霊」のほぼ揃いが、同学会の後進にあたる京都人文書院で奇跡的に発見された。近代日本の精神史を探るうえでの一級資料である「日本心霊」について、本プロジェクトは全資料の裏打ち処理、脱酸素処理を施してPDF化を進めるとともに、二度にわたるワークショップで近代科学史、仏教史、近代出版文化史、日本近代文学などの多様な観点から分析を進め、それぞれの研究成果については書籍、論文、学会発表の形で公表した。
著者
中西 準子 尾張 真則 OIKAWA Teiic DA Costa Man DA Conceicao 原田 正純 MANOEL Quaresma da Costa SILVA PINHEIRO Maria da SILVA Pinhei 高橋 敬雄 横山 道子 鶴田 俊 PINHEIRO Mar CARDOSO Bern GERALDO de A
出版者
横浜国立大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

ブラジル共和国パラ連邦大学熱帯医学研究センターとの共同で、アマゾン川流域での水銀汚染が人の健康に及ぼす影響を、1992年から1998年まで調査した。人の頭髪中水銀値を測定することにより、人の健康へのリスクを推定すると同時に、臨床診断によりメチル水銀中毒症状の有無を調べた。主たる調査対象地区は、アマゾン川支流タパジョス川中流部の3漁村であるが、他にいくつかの漁村、金採掘現場、都市などについても、比較のために調査を行った。中流部3漁村でのサンプル数454の頭髪中水銀値の濃度分析と統計的解析から、これらの漁村住民の知覚障害発生確率は約4%と推定された。また、20〜39歳までの女性57人を対象にした調査から、新生児の歩行障害(歩き出す時期の遅れ)もありうることが推定された。これをふまえて、頭髪中総水銀濃度20ppm以上の居住者と妊婦を中心に、医師の診断を交えた追跡調査を行った。その結果、低濃度汚染による慢性有機水銀中毒症と断定できる人を3名、その可能性があると思われる人を5名、確認した。3漁村に似た状況の孤立漁村の数は多く、他の漁村も同程度のリスクがあると考えられる。漁村住民の頭髪中水銀濃度は、90%がメチル水銀であることから、魚食による経口曝露と考えられる。そこで、タパジョス川流域の魚12種20サンプルの水銀濃度を分析した結果、日本における海水魚の健康基準値0.4ppmを超えるものが、大型肉食魚から3種、淡水魚の基準値1ppmを超えるものが1種確認された。小型草食魚は低濃度である。魚種による水銀濃度の違いがわかったことにより、妊婦や頭髪中総水銀濃度の高い人達に対して、どの魚を食べるべきかについて指導すれば、ある程度リスク削減が可能である。漁村近傍の3地点における、川の底質の水銀濃度を分析した。昨年度までの6地点を加えた9地点で、0.1ppmを超えるものが1つしかなく、日本やカナダなどの水銀汚染事例に比較すると、底質中水銀値は極めて低い。このことは、アマゾン川の自然条件の特殊性を示唆するものである。
著者
一柳 廣孝 橋本 順光 金子 毅
出版者
横浜国立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

平成22年度は4回の研究会をおこない、以下の方々の発表について検討した。志村三代子氏「戦後の『透明人間』-恐怖映画とジェンダーをめぐって」、鷲谷花氏「3DCGアニメーションにおける「不気味なもの」-または我々はいかに心配するのを止めてCGを愛する、ようになったか」、越野剛氏「ソ連におけるオカルト・超科学について」、濱野志保氏「写真と流体-ヨーロッパにおけるエネルギー写真と念写」。また、天理市に天宮清氏を訪ね、CBAに関するインタビューをおこなった。さらに雑誌「GORO」におけるオカルト関連記事のデータベースを作成した。今年度は本研究プロジェクトの完成年度にあたり、それまでの活動・研究報告の総括として「現代日本における「オカルト」の浸透と海外への伝播に関する文化研究研究成果報告書」をまとめた。研究会活動報告、本研究プロジェクトメンバーの研究成果などからなる「研究の概要」、「吉永進一氏インタビュー」、「新倉イワオ氏インタビュー」、「天宮清氏インタビュー」、「雑誌「GORO」オカルト関連記事一覧」が、その内容である。吉永氏の記事からは60~70年代におけるオカルト研究史、新倉氏からはテレビメディアにおける心霊シーンの変遷、天宮氏からは、日本におけるUFO研究の変遷とサブカルチャーへの影響関係など、きわめて貴重なお話をうかがうことができ、価値ある研究成果報告書になったと自負している。
著者
杉山 貴士
出版者
横浜国立大学
雑誌
技術マネジメント研究 (ISSN:13473042)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.67-79, 2006

本稿は、性的違和を抱える同性愛の高校生へのインタビューを通して、高等学校における彼らの性的自己形成過程の一端を検討するものである。ジェンダー規範に包含される異性愛中心性は、高等学校の明示的カリキュラムにおける同性愛の封印と、隠れたカリキュラムによる同性愛嫌悪により支えられている。高等学校において、彼らは (1) 自己受容の困難、(2) 自己イメージ形成の困難、(3) 情報アクセスの困難、(4) 自己開示・人間関係づくりの困難、(5) 事故回避の困難に直面し、結果として、いじめ、不登校、家出などの教育問題を導いていた。特に、同性愛に関する情報へのアクセスを、学校外部にしか求められない状況は、同性愛の高校生が問題予知力を備える性的自己決定能力を育むことが保障されずに性的自己決定を迫られること示しており、現状の高等学校は同性愛の生徒の「性の学習」を奪うことになる。本稿は、高等学校での同性愛の封印解除と積極的なセクシュアリティ教育の必要性を提起するものである。
著者
室井 尚 佐藤 守弘 吉田 寛 吉岡 洋 秋庭 史典 島本 浣 安田 昌弘 小松 正史 吉村 和真 前川 修 大久保 美紀 丸山 美佳
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-10-21

本研究は5名の研究代表者、分担者を中心とした研究会を複数回開催するとともに、大規模な公開研究集会を年に一回開催し、その成果を映像記録や報告書にまとめることによって、一般からもその成果に対する広い関心を集めることができた。最終年度には報告書として論文集を公刊した。また2014年の国際記号学会においてはラウンドテーブルを組織して、海外の研究者との議論を深めることができた。これらの研究活動によって新しい理論的な枠組の構築に結びつけることができた。本研究はポピュラー文化に関する美学的アプローチの最先端の成果を挙げることができた。
著者
西沢 昭男
出版者
横浜国立大学
雑誌
横浜国立大学教育紀要 (ISSN:05135656)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.110-123, 1972-10-02

The purpose of this article is to treat, from different points of view, the revolutionary style of Debussy, and to show what place he occupies in the history of modern music. The writer of this aritcle wishes, firstly, to classify the characteristic aspects of Debussy's method of harmony and through his method of harmony, to reveal one of the techniques which enabled him to produce such sensitive and colorful musical effects. Secondly, the writer tries to explain how the classical, traditional theory of cadence had found a way of servival despite the great upheavals which had taken place in the world of modern music. Also how in the modern mothod of harmony, the control of the tune has become of secondary importance, while the principle of the overtone has still functioned. Lastly, the witer wishes, through an examination of the way in which Debussy solves the tune problem in his composition, to define the position of Debussy in the transitional stage between classical and modern music.
著者
藤田 宙靖
出版者
横浜国立大学
雑誌
横浜法学 (ISSN:21881766)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.287-303, 2014-03
著者
梅野 りんこ
出版者
横浜国立大学
雑誌
技術マネジメント研究 (ISSN:13473042)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.21-35, 2009

17世紀にルイ14世の宮廷で発展したフランスオペラは、王の栄光を称え、現実の宮廷恋愛および政治や事件を反映するものであった。本稿は、テキスト研究と文献研究の方法を用いて、リュリの『テゼ』とシャルパンティエの『メデ』の二作品を、主に歴史的視点とジェンダー視点から比較、分析するものである。オペラは古代ギリシャ悲劇の再生をめざし、ルネサンス時代にイタリアで生まれたが、この二作品もギリシャ悲劇を題材にしている。オペラは常に王や貴族など支配者の側に立っており、当時の社会規範や思想と密接な相互関係を持っていた。本稿はまた、古代ギリシャ時代に確立した古代の家父長制社会と、オペラが誕生した近代の家父長制社会についても比較しながら、二つのオペラの登場人物であるメデについて、その他者性、子殺しの、社会における意味について考察する。同時に、人間性の復興をめざしたはずのルネサンスから始まる近代に、『男性的近代性』によってますます排除され、社会的地位が没落していく女性の状況について論じ、その社会の変化を反映した物語をオペラが作ってきたことについて考察する。The French Opera has developed in the Court of Louis XIV in the 17th century. It praises the glory of the King and reflects politics, love issues and events in the Court. This work examines and compares two operas, Thesee by Lully and Medee by Charpentier which stories are both based on the Greek tragedy. In this paper, I use the methodology which refers to text research and literature research and compare and analyze it with historical perspective and gender point of view. Opera is born in the modern society with the Renaissance to the recurrence to a Greek tragedy and the stories stand on the rulers' side. Opera had the close interaction with the society. This paper also comparing the relation between the patriarchy of ancient times and the patriarchy of modern times, I consider Medee, the heroine of these two Operas, as "the Other", for the people in Europe, and also I would like to analyze the meaning of her infanticide in the society. At the same time, I would like to analyze the fall of women's position and the role of Opera which reflects the society in the period of "male modernity" who excludes women increasingly while they talk about Renaissance of humanity.