著者
江 天瑶
出版者
生活経済学会
雑誌
生活経済学研究 (ISSN:13417347)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.115-130, 2022 (Released:2022-09-30)
参考文献数
27

「妻は家事育児、夫はお金稼ぎ」というジェンダー役割分業はどのように決定されるのか。比較優位モデルや社会的交換理論で解釈すると、収入を得ることで、妻は家事の負担の量をより柔軟に選択できると言われる。経済的に夫に依存している妻は家事の責任を負い、自立している妻は配偶者とより平等に家事を分担する。 しかし、最近の研究では、妻の収入と家事分担の間に異なる相関関係があることが示される。家事の分担は、夫婦間の単純なトレードオフではなく、ジェンダー・イデオロギーにも影響される。男女の役割分業のジェンダー規範を内面化した女性は、夫の収入を上回ることでこの法則に反していると感じ、自分の逸脱を補うためにむしろ家事を増やしてしまう。この現象は社会学では「ジェンダーディスプレイ」と呼ばれる。 本稿では、二次分析を行い、収入を説明変数にして日本と中国の夫婦の家事分担を見る。日本と中国の既婚女性は、経済的地位を向上させることで家事労働を減らすことができるが、ジェンダーディスプレイは彼女たちの家事や育児労働に発生することも見られた。ジェンダー規範は多かれ少なかれ中国と日本の女性の行動に影響を与えている。