著者
江島 泰子
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は複雑に交錯する19世紀の政治・社会さらに文学の様相に対して、聖職者像というテーマによって補助線を引くことで、個々の作家の特異性を浮かび上がらせるとともに、ひいては19世紀文学の多様性を新たな角度から検証することを企図した。19世紀のカトリック教会の状況を制度の面から考察するとともに、実在の司祭像をとおして当時の精神性を考究した。司祭像研究については、個々の作家に特化したもの、あるいはマイナーな作者までも含めての概説書は存在するが、本研究のようなかたちでの先行研究は未だない。本研究の構成は、以下のとおりである。第一部「政教条約下の教会と聖職者」では収集した宗教・社会関連資料を駆使してカトリシスムの組織・動向・精神性研究を行い、文学が描いた司祭像のより深い理解を意図した。第二部「反自然としての聖職者縁」では、ミシュレとゾラを結びつけて検討することで、19世紀反教権主義の一系譜を示し、二人の作家の共通性と差異を明確にした。第三部「『絶対』の人、過去の人」は、ユゴーとルナンの「司祭なるもの」をめぐる思索に関する考究である。第四部「信仰あるいは信仰の誘惑と聖職者像」では、サント=ブーヴとユイスマンスを取り上げ、肉欲の懊悩と信仰と関連して司祭像がどのように把握されているのかを調べた。複数の作家の司祭像をまとめて検討したことで、19世紀フランス文学のダイナミズムの一端を明らかにできた。なお、ルナンに関する論文は、『ルナン学会誌』(Bulletin de la Societe des etudes renaniennes)に掲載することができた。またその論文が認められ、2009年7月のフランス学国際協会(AIEF)のルナン分科会での発表を依頼された。