著者
富田 美穂子 江崎 友紀
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.199-204, 2003-12-31 (Released:2014-02-26)
参考文献数
17

口腔機能と全身との関係が明らかとなり, 咀嚼行為が健康維持に対して重要な役割を持つことが証明されてきた。咀嚼行為は脳内血流量を増やし脳神経に活性化を与えることから, 適切な咀嚼を可能にする口腔機能を維持する事が痴呆予防に最良で簡易な方法ではないかと推定される。それを証明するために痴呆の初期に惹起される前頭葉の機能減退と口腔状態の関係を調べた。私たちは多数歯欠損や不適合義歯のため正常な咀嚼機能を有していないと診断された患者29名を対象に, 補綴処置前 (1回目) と補綴処置後 (2回目: 咀嚼時に不快感がなくなった時期) に, 前頭葉機能の測定に広く利用されているかなひろいテストを施行した。被験者全員のテストの得点は, 1回目の平均値±SDが24.2±11.8, 2回目は28.1±13.2であり, 23名の患者において補綴処置後のテストで高得点を示した。さらに, 2回の得点の差を年代別に比較すると40歳代以下, 50歳代, 60歳代, 70歳代, 80歳代以上において, それぞれ10.5, 8.0, 2.5, 3.7, 1.8点となり若い患者の方が得点の相違が著しいことが明らかとなった。これらの結果から補綴処置による咬合の改善が物事に対する意欲, 集中力を高めたといえ, すなわち咀嚼機能を回復させると前頭葉機能が向上することがわかった。さらに, 年齢別の得点の相違から若年期の欠損歯の放置は高齢者に比べ脳機能に対しての影響力が強いことが示唆された。