著者
江野 肇
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.3-13, 2021 (Released:2022-02-04)
参考文献数
10

今日,“心の傷”という言葉はPTSDの概念を超えて日常語として使用されている。“心の傷”の心理療法では,その背後にある“原因”を“特定”して,“取り除く”“修正する”ことで治療するモデルがしばしば使用される。しかし,特に児童養護施設の子どもたちにこれらを適用する場合,彼らの体験の個別性を見落としてしまう等の限界が認められる。よって,本論では,ユング派の内在的アプローチの視点から児童養護施設でのプレイセラピーの事例を考察し,傷を“取り除く”のではなく,傷に“近づく”ことによる治療の有効性を検討した。最初にクライエントの表現したイメージからは,“傷つくこと”と“傷つけること”を回避する在り方が認められた。しかし,セラピストがクライエントの“傷イメージ”を共有し,深くそれに関わることで,クライエントも自身の傷つきを受け入れることができ,他者と対等に関われるようになったと考えられた。