著者
冨森 崇
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究
巻号頁・発行日
vol.26, pp.79-93, 2014

福島県は,東日本大震災において人類未曾有の地震・津波・原発事故・風評被害の4重苦に襲われた。特に原発事故による放射能汚染は,県民生活に大きな制限と分断をもたらし,今でもなお危機が続いている「イン・トラウマ」の状況にある。この状況下で福島県臨床心理士会は東日本大震災対策プロジェクトを立ち上げ,福島県からの委託事業,日本ユニセフ協会からの委託事業,ふくしま心のケアセンター等の県内外の多くの団体と連携・協力し,乳幼児とその保護者を対象に現地の団体だからこそできる地域に根ざした,自分たちにしかできない心理支援活動を展開してきた。本稿では,震災後の生活や福島県の現状,当プロジェクトの2年間の活動を報告する。
著者
近藤 淳実
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.29-40, 2015

本論文は,性的虐待の疑われた女児の児童養護施設内でのプレイセラピーの事例検討である。5歳8カ月で児童相談所に保護されてから,今までとはまったく異なる世界で適応していかなければならなかった。本児童がその生活に安住するためには,今までの生活は何であったのかを心の中に収めるための物語が必要であった。過去の生活を垣間見るプレイと今の生活を確認するプレイを繰り返しながら,本人の過去を収めていく過程を考察した。
著者
角田 哲哉
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.29-41, 2016 (Released:2017-03-24)
参考文献数
12

軽度の発達障害傾向のある場面緘黙女子中学生は,箱庭が格好の「窓」となり,象徴的な表現を含む興味深い作品を次々とつくった。その過程で,彼女は自己の内界へと向かい,自己と対話を重ねる中で,自らのたましいの声とも言えるものに導かれて自立性を確立することができた。本論文では,箱庭と併せて,場面緘黙に特徴的な身体緊張の緩和をねらったアプローチを行ったが,その過程を追うことで,軽度に発達障害傾向のある場面緘黙の人の箱庭療法の有効性を述べた。
著者
赤川 力
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.67-77, 2015 (Released:2016-02-08)
参考文献数
20

本稿は,潜在性統合失調症の思春期女子との面接過程である。面接過程において,持参した本の一節を素材にして面接が行われた。まず,第1期は受け入れる時期であり,病棟スタッフなどの援助者を受け入れる葛藤が見られた。第2期では幻覚・妄想状態に入っていく。個性化過程には避けられない変容過程が見られた。第3期において父親との対決となる。これまで脅威であった父親と向き合うことになった。第4期で家族とセラピストとの別れの時期となる。これらの面接過程において,クライアントから提示された本の一節を言葉のコラージュとして,他のイメージと共に検討し,言葉のコラージュの意味についても検討した。この過程におけるクライアントとクラピストとの転移・逆転移の関係について検討した。さらに,セラピストがクライアントに抱いていた罪悪感についても検討した。
著者
永山 智之
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.65-80, 2014

本研究では,PAC分析と円を用いた描画法を用い,対人恐怖的心性・ふれ合い恐怖的心性との関連から二者状況と三者状況における体験や困難の生じるダイナミクスを検討し,そこでの関係の持ち方から特徴的な対象関係を探った。その結果,両心性とも低い群の事例では,その場その場の状況に応じて個々の他者との関係を築く柔軟性が窺えた。一方,両心性とも高い群・ふれ合い恐怖的特徴を持つ群の事例では,それぞれ三者,二者で困難な状態となっていたことが窺え,共に人数構造と関係の持ち方の齟齬が特有の否定的体験につながっていたことが推察された。そして,前者には二人称の他者の求める役割,後者には場における役割に同一化することで自己愛を満たす防衛的対象関係が見出せた。
著者
塚越 康子
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.45-56, 2015 (Released:2016-02-08)
参考文献数
9

本論文では児童養護施設における被虐待児との5年間の遊戯療法過程での箱庭や遊びの表現を取り上げ,被虐待児のクライエントにとっての守りとなったものを検討した。言語的表現が苦手なクライエントは,セラピストとの最初の出会いでの体験からセラピストへの安心感を持ち,心理療法初期から自己の内的世界を箱庭や遊びの中で自由に表現することに繋がった。母親との葛藤に直面化する日常の出来事が起こるたびに,彼の内的世界は大きく崩れたが,心理療法における場所や時間など治療的な枠組みとセラピストとの関わりが守りとなり,遊戯療法の中で内的世界を自由に表現した。さらに,箱庭や遊びで表現できることの守り,箱庭の枠や箱庭の中の柵の守りなど幾重もの守りが彼の自我の成長を促し,クライエントは主体的に生きていくことを選べるようになったと考えられる。
著者
坂井 朋子
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.41-52, 2018

<p>本論文では,窃盗症と診断された女性との箱庭療法過程に見られた,循環的な成長について論じる。本事例は定着のしづらさが特徴で,ペアになる対象を求めて彷徨っていた。人に尽くして満足する自己愛的なファンタジーが自我と乖離し主導することに問題の本質があり,そのため強い守りとなる枠が必要であった。重要なのはその中で不安や葛藤を保持することである。箱庭は,セラピストも含む多様な「私」との交感の場で,囲われて省みられることによって「私」は純化され,固着から解放された。背景の出来事が意味のあるタイミングとしてとらえられ,途絶えていた体験の連続性が箱庭において結びついたことが,ひとつの鍵であったと思われる。閉塞的なペアのイメージが開放するものに変化する過程で,イメージと身体が一致する転機があり,家族や地域社会,風土と調和して生きられる「私」になった。</p>
著者
斎藤 清二
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.75-82, 2014

1991年から2000年の10年間に,84名の摂食障害患者(神経性食思不振症[AN]53名,神経性過食症[BN]31名)が,心理療法セッションにおいて,自身の病いの経験と夢について語ることを勧められた。12名の女性の患者(AN8名,BN4名,14歳から28歳)が研究協力者となった。これらの患者は8ヶ月から6年間経過観察され,全例が寛解に達するか,明らかな病状の改善を認めた。322編の夢の語りが収集され,物語分析法により質的に分析され,カテゴリー化された。研究協力者から報告された夢語りのテーマと構成概念は,以下のようなキーワードによって描写することができた。「孤立/混乱/自我同一性の喪失」「旅」「試練」「異界」「自己解体」「死と再生」。比喩的に言えば,研究協力者のメタ・ナラティブは,通過儀礼,変容,死と再生といったテーマに関連しており,それを通じて真の自己が実現される一種の「探求の物語」として描写可能であった。結論として,個人レベルの人生の物語だけではなく,超個人的あるいは元型レベルの物語を共有することが,摂食障害の患者を理解し,治療的に寄り添うことを続けるために重要である。
著者
長谷川 千紘
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.17-27, 2015

本稿では,「私がない」ことを訴える20代前半の女性の心理療法過程を報告する。クライエントは思春期に生じた自己像の揺らぎをきっかけに摂食障害や希死念慮を抱えてきた。面接当初,彼女は出来事の次元としては整った物語を語ったが,そこには彼女自身の内的リアリティが欠けていた。セッションのなかで彼女は"自分が空っぽ""自分が分からない"と感じていることが明らかになる。彼女の心理学的テーマはどのように自分自身に出会うかという自己関係の問題であったと思われる。本論文では8つの夢を通して,彼女の〈私〉という自己感がどのような状態にあって,どのように変化していったのかを検討する。
著者
赤川 力
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.41-50, 2013 (Released:2014-01-24)
参考文献数
11

本稿は,下着の窃盗をした不登校の中学2年男子生徒との事例研究である。このクライエントは児童相談所から児童自立支援施設に処置され,その後にスクールカウンセラーに依頼された事例であった。面接開始時は訪問面接であったが,最後には学校での面接に至った。このクライエントは,主に音楽のイメージを用いて表現してきた。考察では,3点について考察した。1.音楽を通して表現されたもの,2.通路としての音楽と「橋をかける」機能としての音楽について,3.ClとThとの関係性について,である。
著者
桑原 晴子
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.3-15, 2015 (Released:2016-02-08)
参考文献数
15

本論文は,緘黙傾向の不登校中学生女子の箱庭療法過程を提示し,場面緘黙の箱庭療法においてどのように身体的側面が意義をもつのかを検討することを目的とする。箱庭のイメージ内容の変化,箱庭制作時のリズムという身体的側面,そして箱庭療法のプロセスで生成する身体症状の3側面に意味深い連関が見られた。イメージ内容では,砂あるいは世界を水で分割し同時につなげることが繰り返された。また箱庭を制作する際に多様なリズムが生まれ,そのリズムを生み出すことが主体の感覚の生成につながったと思われる。また面接の転機に身体症状が生じたが,これらの身体症状をイメージとして捉えることが重要だと考えられる。そしてJungによる共時性の視座がこれらの相互連関するプロセスを理解し,その自律的展開を見守るうえで意義があることについて考察を行った。