著者
松山 剛士 河野 正司 荒井 良明 池田 圭介 平野 秀利
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.159-165, 1996-01-31
被引用文献数
12

咀嚼運動は咀嚼筋, 頭頸部筋, 舌筋, その他の口腔軟組織の協調活動により行われるリズミカルな運動である.また, 頭位の変化が顎口腔機能に及ぼす影響についての報告がある.これらより, 咀嚼時に下顎運動に伴って, 頭部もリズミカルに運動しているとの推測ができるが, その報告は極めて少ない.本研究の目的は, 下顎運動に伴って生じる頭部運動の特徴を明らかにし, 下顎運動との協調性を検討することである.我々は, 頭部運動と下顎運動とを同時に測定する実験システムを構築し, さらに顎運動と同時に左右咬筋, 胸鎖乳突筋の筋電図も同時測定した.測定に際しては, 被験者の頭部固定は行わず, 無拘束の状態とした.被験者には, 顎口腔系に異常を認めない, 成人男子3名を選択し, ガムの片側咀嚼を指示した.その結果, 1.タッピング運動時には, 下顎運動に同期した上顎切歯点の上下的な周期運動が観察され, 側方成分は少なかった.2.下顎運動に側方要素が加わる咀嚼運動では, 頭部運動にも左右的な運動要素による周期運動が認められ, その運動は下顎運動と協調していた.3.この頭部の協調運動は, 咀嚼運動の前期に特に高頻度に観察された.4.咀嚼運動時に観察される頭部の側方運動周期は, 下顎の周期と約170〜190msec遅れた位相偏位が認められた.この結果, タッピング運動に比較して, 下顎運動に側方要素が含まれる咀嚼運動には, 頭部も側方要素を含んだ周期運動を行っており, またその運動には, 下顎運動, 咀嚼筋, 頭頸部の筋の筋活動との協調性が認められることが明らかとなった.
著者
澤田 宏二 荒井 良明 河野 正司 大竹 博之 池田 圭介 中島 正光 平野 秀利
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 = The Journal of Japanese Society of Stomatognathic Function (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.59-66, 1996-06-30
被引用文献数
6

顎関節脱臼の治療には, 口腔外科領域での観血的処理が行われることが多く, 咬合治療が行われることはまれである.しかし, 顎関節脱臼症例に対して, 咬合治療を行うことにより治癒をみた報告はこれまでもある.今回, 我々も顎関節脱臼症例に対して, ガイドの位置を変化させる咬合治療により顎関節脱臼の治癒をみた.症例は起床時の右側顎関節習慣性脱臼を有する18歳男性1名である.平成6年頃より, 起床時に右側顎関節脱臼が生じたが, 自力で整復が可能であったので放置した.しかし, 脱臼の発生頻度が高くなり, 平成7年2月には毎朝右側顎関節脱臼が生じるようになり, 当科に来院した.患者は側方滑走運動時に第2大臼歯のみが歯牙接触していた.スタビリゼーションスプリントを上顎歯列に装着したところ, 翌日から起床時の右側顎関節脱臼は消失した.その後, 作業側ガイドと非作業側ガイドのどちらが脱臼の消失に寄与しているのかを追求し, さらに6自由度顎運動測定装置(東京歯材社製TRIMET)により, 3種類の滑走接触における顎運動の解析を行った.その結果, ガイドを歯列の前方歯に修正することによって, 下顎の滑走運動のみならず, 歯牙接触のない下顎運動経路, さらには顆頭の運動量にも変化を認め, 右側顎関節脱臼は消失した.今回の症例より, 顎関節脱臼症例にアンテリアル・ガイダンスの修正が有効な治療法となりうることが示唆された.