著者
池田 遊魚 Yugyo Ikeda
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.99, pp.151-167, 2014-03

小説『マルテの手記』は、20世紀初頭のパリで不安と苦悩の日々を過ごしたリルケが、後の『ドゥイノの悲歌』の詩人へと自己形成を遂げていく転機にあって、手記という散文形式において自己省察を試みた特異な書物である。大都市の匿名性のなかで語り手は自己解体の危機に瀕しながら、自分を悩ませるさまざまな不安の形象を描き出し、記憶の断片をたどって生の再構築を試みる。そこに仄かに浮かび上がってくるのが、個人のアイデンティティを超える生の予感である。そして、それまで異郷を彷徨うように生きてきたマルテ=リルケは、詩人としての全的な生を手に入れるため、改めて自己の幼年時代との直面を要求されることになる。--本稿では以上のようなプログラムによって『マルテの手記』読解の可能性を探る。