著者
神谷 浩夫 池谷 江理子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.15-35, 1994-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
11
被引用文献数
6 6

本稿の目的は,各地域における就業する女子と就業していない女子の比率(すなわち就業率ないし労働力率)が,他の地域と比較してどれほど差があるかを考察することにある。そのためにまず,第二次大戦後から現在に至る女子就業率の推移を市郡別データを基に概観して都市部と農村部における女子就業率の動向を明らかにし,これを受けて都道府県別の女子労働力率の差異の分析を行なった。なお,時系列の考察では就業率,地域差の考察では労働力率という異なった指標を用いた。本来,労働力率という単独の指標で分析を統一することが望ましいが,産業別・年齢別の労働力データが得られないため,就業率を用いることとした。 1955年から1985年の間の女子就業率の変動を,市部と郡部に分けて考察した結果, 1955年には市部の女子就業率は郡部に比べてかなり低かったが, 1985年の両地域の差異はかなり縮小したことが明らかとなった。年齢別女子就業率の特徴としては,いわゆるM字型プロフィールが1955年から1985年の間にかなり鮮明となると同時に,市部と郡部でプロフィールの形状に差がなくなりつつある点が明らかとなった。これは,市部で中年層の就業率が大幅に上昇し,郡部では中年層以外の年齢層の就業率が低下したことに起因する。産業分野別の就業者割合の変化をみると,卸・小売業,サービス業従業者の比率が上昇した点は郡部・市部ともに共通しているが,製造業従業者比率の増大は製造業が地方へ分散したたあに市部よりも郡部で大きかった。年齢別には,市部・郡部ともに15~19歳の年齢層で女子就業率が大幅に低下したが,これは,高校・大学進学率の上昇に原因があると推測された。また,パートタイム・アルバイト就業が女子就業のかなりの部分を占めていることも,データから裏付けられた。 次に, 1985年における女子労働力の地域的変動を説明するために,都道府県別女子労働力率を従属変数,女子労働力の需要と供給に関する11変数を独立変数としてステップワイズ重回帰分析を行なった。その結果得られた回帰方程式では, 15~24歳の年齢層と他の年齢層とでは女子就業率の地域的変動を説明する要因が大きく異なっていた。また,35~44歳や45~54歳の年齢層では,農家世帯比率が女子労働力率の地域差を説明する最大の要因であったが,15~24歳の年齢層ではとび抜けて寄与率の高い要因は見い出せなかった。既往の研究と比較すると,回帰式の決定係数が低い結果となった。その理由は,日本の国全体でみて1985年には農業就業者がかなりの水準まで低下したたあと推測される。また,若年層と高年齢層では供給要因以外にも労働市場の需要要因が地域の女子労働力率の高低に対して影響を及ぼしていることも明らかとなった。今後,さらに女子就業の地域的変動を詳しく分析するためには,パートタイム就業者やアルバイト就業者といった就業形態の違いも考慮に入れた分析も必要だろう。