著者
河上 緒
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.53-57, 2023 (Released:2023-06-25)
参考文献数
12

変性疾患脳における精神症候と病変局在を検討した神経病理研究は,精神疾患における病態を考えるうえで意義深い。アルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)やレビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB)などの認知症疾患は,病理学的にタウやα‐synucleinなどの変性タンパクが蓄積することが知られているが,病初期においてうつや幻覚妄想などの精神症候を伴いやすく,精神症候の責任病巣として辺縁系領域や前頭葉皮質に着目した報告が多い。AD同様,タウタンパクを病因とする神経原線維変化型老年期認知症では,老年期精神障害を呈する一群の存在が知られ,側坐核を含む辺縁系領域の高度タウ病変と精神症候との関連が示唆されている。さらに,DLBの抑うつを呈する群では,精神症状を欠く群と比べて側坐核や関連投射路において高度にα‐synuclein病変が多いとする報告など,mesolimbic dopaminergic pathwayと精神症状との関連を示唆する報告が相次いでいる。本稿は,わが国の精神科神経病理研究の礎となってきた松沢・医学研ブレインバンクにて,筆者らが進めてきた老年期認知症疾患における臨床病理学的研究の成果に触れ,最近筆者らが取り組んでいる神経回路に着目した精神神経疾患の病理学的探索研究について紹介する構成とした。