著者
河本 陽介
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.16-25, 1999
被引用文献数
1

【目的】近年, 癌化と細胞周期調節との関わりが注目されている.細胞周期を負に制御しているサイクリン依存性キナーゼ(cyclin dependent kinase ; CDK)インヒビターであるp16遺伝子は, 種々の成人悪性腫瘍において, ヘテロ接合性消失(loss of heterozygosity ; LOH)や変異が高頻度に検出され, 癌抑制遺伝子と考えられている.一方, 小児悪性固形腫瘍である肝芽腫, Wilms腫瘍, 横紋筋肉腫において, しばしば染色体11p15.5領域の欠失が報告されているが, p57遺伝子はこの領域に存在し癌化に関与する遺伝子として注目されている.今回, 小児悪性固形腫瘍におけるp16遺伝子およびp57遺伝子の関与の有無を検討した。【方法】教室で経験した小児悪性固形腫瘍を対象として, (1)polymerase chain reaction-single-stranded conformation polymorphism (PCR-SSCP)法, 直接塩基配列法によるp16遺伝子の変異, および(2)定量的PCR法を用いたp16, p57遺伝子の発現を解析し, 各腫瘍の病期ならびに生命予後と比較検討した.【結果】p16遺伝子変異は, DNAを抽出し得た111例中Wilms腫瘍1例, 肺芽腫1例の計2例に認めたが, いずれもコドン127の変異(GGG→GGA)であり, コードするアミノ酸には変化がみられなかった.p16, p57遺伝子発現に関しては, その多寡と特異的な関連を有する特定の腫瘍種はみられず, また各腫瘍における病期, 生命予後との間にも明らかな関係は認められなかった.さらに各腫瘍におけるp16, p57両者の発現の相関を検討したが, 両遺伝子の発現量の間には有意な相関は認められなかった.しかしながら, 神経芽腫, 肝芽腫, Wilms腫瘍, 横紋筋肉腫のいずれの腫瘍においても, その一部にp16, p57のいずれか, あるいは両者とも発現の低下した症例を認めた.【結論】小児悪性腫瘍においては, p16, p57の遺伝子変異の関与は低いものの, これら遺伝子の発現低下によりCDKの活性化が維持され, 腫瘍増殖につながる症例のある可能性が示唆された.