著者
河野 時廣
出版者
一般社団法人 水産海洋学会
雑誌
水産海洋研究 (ISSN:09161562)
巻号頁・発行日
vol.84, no.3, pp.161-177, 2020-08-25 (Released:2022-03-17)
参考文献数
41

サケOncorhynchus keta が回帰するときの沿岸環境は漁獲や再生産に影響するため温暖化の影響が懸念される.2017年9月と10月における石狩川河口の南西1.9–14.1 kmの距離にある4ヶ統のサケ定置網の日別漁獲尾数とその中の2ヶ統で観測された水温連続記録を解析した.10月4–6日と16–18日の各期間にすべての定置網の漁獲尾数が極大を示し,ほぼ同時に水温の極小と下向き水温鉛直傾度の極大がみられた.河口水位の極大に6–7日遅れてこれら水温極小と漁獲量極大がみられ,石狩川河川水プルームの拡大とサケの誘引が考えられた.河川水量を推定し熱・体積保存モデルに適用すると,プルームの半径は37 kmに増加して漁場を含む湾奥部を覆う結果を示し衛星画像および水温観測結果と対応した.プルーム拡大にともなう河川水希釈率は11.3%でサケ科魚類が探知可能な濃度閾値より1–2桁高く,漁場沖のサケはプルームに誘引されて漁獲された.河口から遠い定置網の方が早く漁獲尾数が増加しており,サケの分布は河口の南西側に偏っていたのかもしれない.北海道西岸域における海況の季節変化のサケ回帰に対する重要性についても議論した.