著者
中島 広人 鈴木 啓太
出版者
一般社団法人 水産海洋学会
雑誌
水産海洋研究 (ISSN:09161562)
巻号頁・発行日
vol.87, no.1, pp.1-14, 2023-02-25 (Released:2023-06-27)
参考文献数
38

スズキは真冬に沖合で産卵し,仔稚魚が春先に沿岸浅所に出現する.スズキ浮遊卵仔魚の輸送機構への理解を深めることを目的とし,2019年12月から2020年3月に若狭湾西部に位置する丹後海とその隣接海域において大型プランクトンネットにより定量採集を行った.水平分布調査の結果,スズキ卵は湾央から湾外東にかけて多く,産卵場はこれらの海域を中心に形成されていると考えられた.鉛直分布調査の結果,卵は主に海面に,卵黄嚢仔魚は主に水深40 m以深に分布する一方,前屈曲・屈曲仔魚は主に水深10–20 mに分布することがわかった.丹後海には冬季北西風により駆動される流れが知られており,前屈曲・屈曲仔魚は特に湾奥に向かう中層の流れを利用していると考えられる.産卵場はこの流れの上流側に位置し,成育場が多く存在する湾奥への輸送に貢献していると言える.
著者
山本 昌幸 棚田 教生 元谷 剛 小林 靖尚 片山 知史
出版者
一般社団法人 水産海洋学会
雑誌
水産海洋研究 (ISSN:09161562)
巻号頁・発行日
vol.84, no.3, pp.178-186, 2020-08-25 (Released:2022-03-17)
参考文献数
25
被引用文献数
1

瀬戸内海東部のアイゴの資源生態を明らかにするため,2013年4–12月に岡山県,香川県,徳島県で漁獲された本種の年齢・成長と産卵期について調べた.標準体長は117–310 mmであった.生殖腺重量指数(GSI)は雌が0.04–40.36,雄が0.01–30.16となった.組織切片観察から,雌雄それぞれGSIが3.57と4.79以上の個体が成熟し,7月下旬に退行期の雌が観察された.GSIが3.57以上の雌と4.79以上の雄は,それぞれ6–8月と6–7月に出現した.さらに雌雄ともにGSIは6月中旬から7月に高くなった.耳石のチェックマークは6–8月に年1回形成された.最高年齢は雄と雌でそれぞれ4歳と8歳であった.雌雄の有意な成長差は認められなかった.成長式は,SLt=255 (1−e−0.56(t+0.95)), (SL:標準体長mm, t:年齢)となった.
著者
後藤 友明 髙梨 愛梨
出版者
一般社団法人 水産海洋学会
雑誌
水産海洋研究 (ISSN:09161562)
巻号頁・発行日
vol.84, no.2, pp.100-109, 2020-05-25 (Released:2022-03-17)
参考文献数
27

2008年から2018年に岩手県南部沖で行った底延縄調査で採集された1,485個体(標準体長78–359 mm)に基づいて,タヌキメバルの年齢,体長–体重関係,年齢–体長関係を推定した.体長–体重関係は,雌雄で異なるアロメトリー式で表された.耳石薄片の観察から耳石縁辺の輪紋形成周期を推定したところ,不透明帯は5–10月にかけて年1回形成されることが示された.得られたタヌキメバルの年齢は1–9歳の範囲で,年齢–体長関係に有意な雌雄差はみられず,雌雄込みのvon Bertalanffyの成長式で表された.GSIの季節変動から,雌の成熟個体は3–5月に出現し,4歳以上で認められた.求められた年齢と成長・成熟の関係は,岩手県から八戸沖からタヌキメバルと区別されずに求められてきたキツネメバル種群の既往値と同様であった.年級群別のCPUE(個体数/100針)を算出し,年級間で比較した結果,本海域における調査期間内のタヌキメバル資源では, 2005, 2007, 2008, 2015年級群の豊度が相対的に高いことがわかった.
著者
井上 誠章 桑原 久実 南部 亮元 石丸 聡 橋本 研吾 桑本 淳二 増渕 隆仁 金岩 稔
出版者
一般社団法人 水産海洋学会
雑誌
水産海洋研究 (ISSN:09161562)
巻号頁・発行日
vol.84, no.3, pp.187-199, 2020-08-25 (Released:2022-03-17)
参考文献数
43

魚礁効果に関する多くの研究は漁業に依存しない調査データによるものであり,商業漁業によって得られた漁業依存データを用いた研究は少ない.漁獲量および漁獲量を努力量で除して計算されたCPUE(Catch per unit effort)は魚礁効果のほか,操業海域や漁船能力,資源の年および季節変動の影響を受ける.そのためCPUEをそのまま用いた解析からは資源密度にあたえる魚礁効果を偏りなく評価できない.本研究ではメダイ,ヒラマサおよびイサキについて,上記の問題を避けるためCPUE標準化の手法を応用して効果範囲を定量評価した.メダイ資源密度は,魚礁海域では天然海域の約7.0倍であり,効果範囲は魚礁中心から約350 mと推定された.ヒラマサの効果範囲は約100 m,イサキでは魚礁の近接海域に限定されると推定された.
著者
河野 時廣
出版者
一般社団法人 水産海洋学会
雑誌
水産海洋研究 (ISSN:09161562)
巻号頁・発行日
vol.84, no.3, pp.161-177, 2020-08-25 (Released:2022-03-17)
参考文献数
41

サケOncorhynchus keta が回帰するときの沿岸環境は漁獲や再生産に影響するため温暖化の影響が懸念される.2017年9月と10月における石狩川河口の南西1.9–14.1 kmの距離にある4ヶ統のサケ定置網の日別漁獲尾数とその中の2ヶ統で観測された水温連続記録を解析した.10月4–6日と16–18日の各期間にすべての定置網の漁獲尾数が極大を示し,ほぼ同時に水温の極小と下向き水温鉛直傾度の極大がみられた.河口水位の極大に6–7日遅れてこれら水温極小と漁獲量極大がみられ,石狩川河川水プルームの拡大とサケの誘引が考えられた.河川水量を推定し熱・体積保存モデルに適用すると,プルームの半径は37 kmに増加して漁場を含む湾奥部を覆う結果を示し衛星画像および水温観測結果と対応した.プルーム拡大にともなう河川水希釈率は11.3%でサケ科魚類が探知可能な濃度閾値より1–2桁高く,漁場沖のサケはプルームに誘引されて漁獲された.河口から遠い定置網の方が早く漁獲尾数が増加しており,サケの分布は河口の南西側に偏っていたのかもしれない.北海道西岸域における海況の季節変化のサケ回帰に対する重要性についても議論した.
著者
金元 保之 高澤 拓哉 宮原 寿恵 道根 淳 沖野 晃 寺門 弘悦 村山 達朗 金岩 稔
出版者
一般社団法人 水産海洋学会
雑誌
水産海洋研究 (ISSN:09161562)
巻号頁・発行日
vol.84, no.3, pp.149-160, 2020-08-25 (Released:2022-03-17)
参考文献数
33

島根県機船底曳網漁業連合会所属の沖合底曳網漁船では2012年以降,漁業情報を活用した機動的禁漁区を導入し,アカムツ小型魚の資源管理を行っている.一方で,海域全体のアカムツ小型魚の分布状況を事前に把握し,それらの情報を基により効果的な禁漁区の場所と範囲を設定する必要性が高まってきている.そこで,本報告では2011–2018年の3–5月の沖合底曳網漁業船の操業情報と底水温,底塩分及び底流速の海洋環境情報からランダムフォレストを用いて,日本海南西海域におけるアカムツ小型魚の分布を推定及び予測するモデルを開発した.out of bag(OOB)データに対する予測誤差は,操業年に基づくモデルでは14.5%,漁期前半の一曳網当たり漁獲量に基づくモデルでは14.6%であった.さらに,漁業試験船を用いた試験操業により,漁獲の有無の予測精度を評価した結果,正答率は94%であった.これらの結果に基づき,アカムツ小型魚の時空間分布特性と分布に影響を与える要因の特徴について議論した.
著者
髙﨑 健二 齋藤 勉 大関 芳沖 稲掛 伝三 久保田 洋 市川 忠史 杉崎 宏哉 清水 収司
出版者
一般社団法人 水産海洋学会
雑誌
水産海洋研究 (ISSN:09161562)
巻号頁・発行日
vol.84, no.2, pp.89-99, 2020-05-25 (Released:2022-03-17)
参考文献数
11

本研究では,灯火を用いない漁業の観測が可能な合成開口レーダを用いて2そうびき漁船の検出を行った.2そうびき漁船の自動検出は,画像からすべての船舶を抽出した後,それぞれの船舶において周辺船舶との距離を調べ,船舶間距離が最小となる組み合わせを漁船ペアとすることで可能となった.漁船ペアが間違っているものについては,組み合わせの修正方法を提示した.また,対象海域における2そうびき漁船の活動を把握するため,2そうびき漁船の密度と船舶間距離を求めた.本研究により,漁期中に十分な画像データが得られれば,漁獲努力量を推定できる可能性が示唆された.
著者
髙村 正造 鈴木 勇己 荻原 真我 古市 生 渡邊 千夏子
出版者
一般社団法人 水産海洋学会
雑誌
水産海洋研究 (ISSN:09161562)
巻号頁・発行日
vol.84, no.2, pp.79-88, 2020-05-25 (Released:2022-03-17)
参考文献数
30

相模湾および相模灘海域で漁獲されたマアジについて,雌雄の生殖腺の組織学的観察や生殖腺重量指数(GSI)に基づいて,性成熟や産卵期などを調べた.GSIの月別変化から,雌雄ともに3–9月にGSIの高い個体が出現し,雄は5月,雌は6月にGSI平均値が最大となった.生殖腺の組織学的観察結果から,雄では精子で充たされた精巣を持つ個体が3–7月に,雌では胚胞(核)移動期および成熟(吸水)期の卵を持つ個体が4–7月にそれぞれ出現した.当該海域における最小成熟年齢は,雄では0歳,雌では1歳であるとともに,雄では11歳,雌では23歳の成熟個体も認められた.半数成熟尾叉長は雄では188.2 mm,雌では230.6 mmであり,雄は雌よりも小型・若齢で成熟することが示唆された.年齢とGSIの関係から,高齢魚ではGSIが低下する傾向が認められたが,当該海域の本種は初回成熟・産卵後から10年以上に渡って産卵に寄与し続けていると考えられた.
著者
石井 光廣 石黒 宏昭 篠原 徹 野口 秀隆 鈴木 正男 堀川 宣明 滝本 豊 余川 浩太郎
出版者
一般社団法人 水産海洋学会
雑誌
水産海洋研究 (ISSN:09161562)
巻号頁・発行日
vol.84, no.2, pp.71-78, 2020-05-25 (Released:2022-03-17)
参考文献数
20

房総沿岸で小型漁船はえ縄漁業(通称:かじき縄)によって漁獲されるメバチ大型魚の漁獲特性を整理した.かじき縄は,11月から翌年6月頃に房総沿岸の黒潮流路周辺で,日中に釣針の到達深度約70 mの浅縄操業を行い,主に尾叉長110 cm以上のメバチを漁獲していた.メバチの漁獲位置の月平均表面水温は18.5–23.2°Cであり,これまでのメバチの知見と異なり,日中に水深が浅く高水温の海域で漁獲されていた.
著者
梨田 一也
出版者
一般社団法人 水産海洋学会
雑誌
水産海洋研究 (ISSN:09161562)
巻号頁・発行日
vol.84, no.2, pp.61-70, 2020-05-25 (Released:2022-03-17)
参考文献数
20

ニギスは日本周辺における沖合底びき網漁業の主要な漁獲対象種の一つである.魚類発育初期の成長の良否は生残を左右し,資源加入にも影響を及ぼすと考えられるが,ニギス仔稚魚の成長・生残に関わる知見は少ない.2008年4月から2010年3月にかけて,日本の南西部に位置する土佐湾において小型のオッタートロール網を用いてニギス仔稚魚を毎月採集した.標準体長(SL)組成の経時変化により,2–7月頃に小型個体(SL<40 mm)が加入し,約100 mm SLに成長するまで連続的に採集された.明確に識別されたコホートを複数月にわたり追跡し,採集日の間隔と耳石輪紋増加数がほぼ一致することから耳石輪紋の日周性が確認された.採集個体の第一輪形成日(DFRF)を年毎に集計した結果,いずれの年も2–7月に緩やかなピークを持つ単峰型であったことから,土佐湾のニギスは初春から初夏に産卵盛期を有すると考えられた.このことは,日本海におけるニギスが春季と秋季に二つの産卵期を持つという従来の知見とは異なっている.月別のDFRF分布から2008年には春季と夏季の2つのグループが示されたのに対し,2009年では一つのグループ(春季)のみが示された.成長パターンを明らかにするため,2008年と2009年の各グループにおいて第1輪から第56輪までの耳石輪紋間隔を5日ごとに平均した.2008年および2009年春季グループは2008年夏季グループに比べ耳石輪紋間隔は狭い傾向であったが,特に早く採集された個体(短期生残個体)は遅く採集された個体(長期生残個体)に比べ耳石輪紋間隔が狭かった.しかし,2008年夏季グループにおいては短期生残個体の方が長期生残個体よりも耳石輪紋間隔が広い例がみられた.以上により,土佐湾のニギスは発育初期の環境に恵まれなかった場合には成長選択的に生残することが示唆された.
著者
石川 和雄 伊藤 幸彦 中村 啓彦 仁科 文子 齋藤 友則 渡慶次 力
出版者
一般社団法人 水産海洋学会
雑誌
水産海洋研究 (ISSN:09161562)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.93-103, 2019

<p>東シナ海由来のアカアマダイ卵・仔稚魚の宮崎県沿岸域への輸送過程を,海洋同化システムの再解析値を用いた粒子追跡実験により調べた.主産卵季・産卵場である秋季・東シナ海陸棚縁辺から輸送される粒子のうち,平均的な着底時期とされる45日目に宮崎県沿岸域に到達したのは全体の0.01–0.7%で,その約90%が大隅海峡を経由,トカラ海峡経由は約10%であった.宮崎県への到達粒子数は,大隅海峡を通過する粒子数と有意な正の相関があったが,大量に到達する事例には黒潮小蛇行に伴う大隅分枝流の減速が関係していた.宮崎県沿岸に到達しなかったものを含め,太平洋側に出た粒子は全体の10.8%,日本海側に出た粒子は1.5%であり,88%は東シナ海に留まった.これらの結果より,東シナ海のアカアマダイは域内で再生産しつつ,日本沿岸に仔稚魚を供給していること,宮崎県沿岸に対しては大隅海峡が主要な輸送経路であることが示唆された.</p>
著者
原田 和弘 阿保 勝之 川崎 周作 竹迫 史裕 宮原 一隆
出版者
一般社団法人 水産海洋学会
雑誌
水産海洋研究 (ISSN:09161562)
巻号頁・発行日
vol.82, no.1, pp.26-35, 2018

<p>播磨灘北東部沿岸(兵庫県明石市から加古郡播磨町沖)のノリ漁場周辺における溶存態無機窒素(DIN)の動態とノリの品質を調査した.当海域の表層DIN濃度は,港湾内や下水処理水放流口周辺で高い傾向にあった.また,表層DIN濃度の水平分布は海岸線に沿った岸寄りの東西方向に比較的高い濃度域が広がり,沖合域は低かった.塩分やアンモニア態窒素濃度の観測結果から,調査海域東部沿岸に位置するノリ漁場周辺では,下げ潮時(当海域では東流)に港湾からの流出水および下水処理水からの栄養塩供給を受けている可能性が示唆された.また,数値シミュレーション結果でも,放流された下水処理水は下げ潮時に東の方向に流れ,ノリ漁場に到達すると判断された.さらに,同漁場のノリの色調は,港湾流出水や下水処理水等の影響を受けやすい沿岸側で良好であることが判明した.</p>