著者
河野 正充
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

乳幼児の免疫学的未成熟な期間における母体免疫の有効性について、従来より指摘されている移行抗体の役割のみではなく、免疫担当細胞の誘導や免疫学的メモリーの獲得等、乳幼児自身の免疫システム構築の側面から検討を行った。①肺炎球菌の表面共通蛋白抗原であるPspAを用いた母体免疫により、新生児マウスの脾臓において抗PspA特異的抗体産生細胞が非免疫群由来の新生児マウスと比較して有意に多く検出された。すなわち、母体免疫により新生児マウスの体内には経胎盤あるいは母乳を介した移行抗体のみではなく、肺炎球菌に対する免疫担当細胞が誘導されていることが確認された。②母体免疫により誘導された抗肺炎球菌特異的免疫能は、肺炎球菌感染症に対する予防効果を認めた。母体からの移行抗体が消失している5週齢前後の仔マウスにPspAを皮下接種し、抗肺炎球菌特異的抗体を誘導した後、肺炎球菌を全身感染させた。免疫群由来の仔マウスは非免疫群由来の仔マウスと比較し、生存期間の有意な延長を認めた。③母体免疫により、仔マウスは肺炎球菌抗原に対する長期的な免疫学的メモリーを獲得した。5週齢前後の仔マウスにPspAをアジュバントを用いずに皮下接種し、血清中に誘導される抗PspA特異的抗体を経時的に測定した。非免疫群由来の仔マウスでは抗体価の上昇は軽度であり、PspA皮下接種から2週間後に血清抗体価のピークを認めたのに対し、免疫群由来の仔マウスの血清中抗体価は接種後1週間後から有意な上昇を認め、2週目以降も抗体価の上昇を認めた。PspAを用いた母体免疫により、新生児マウスに抗肺炎球菌特異的免疫応答の持続的な誘導を行うことが示された。今後、免疫誘導の詳細な機構を解明することで、新たなワクチン開発における有用な情報が得られることが望まれる。