著者
桐谷 圭治 法橋 信彦
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.124-140, 1962-06-30
被引用文献数
3 33

ミナミアオカメムシの最近の増殖の原因を生命表を連続3世代にわたって作成することにより解析した。調査は, 1化期にはバレイシヨ236株, 2化期は早期栽培水稲1,250株, 3化期は晩期栽培水稲1,000株を2区(1区は無処理区, 他はクモ除去区として隔日にクモを採集除去)に使用した。調査は1化期(5月7日〜7月17日), 2化期(7月5日〜8月16日)は週2回, 3化期(9月5日〜10月29日)は隔日ごとに全株調査を行なった。1化期の卵および各令期, 2,3化期の卵期, 1,2令期の個体数は実数を用いたが, 3令期以後は観測値を(1)式により補正を行ない, 各令期の中期における個体数Nを算出した。[numerical formula]A=各令期別の累積観測値, P=各令期の出現期間中における平均調査間隔, I=各令期の平均期間。各令期間は2化期についてはささげのさやを飼料として30℃で, 3化期は直接調査ほ場で測定した。3化期における卵から成虫羽化までの所要日数は25℃, 30℃, 自然温下でそれぞれ40.1日, 34.7日, 42.5日であった。産卵期間は2〜3週間で, 1株当たりの卵塊密度は1化期0.10,2化期0.10,3化期0.07で, 平均卵塊サイズはそれぞれ74.1卵, 82.5卵, 97.6卵であった。卵から成虫羽化までの生存曲線は, DEEVEY(1947)の第IIと第III型の中間の型を示した。死亡率曲線は1化および2化期は, 卵期から2令期にかけて1つのピークが見られるが, 3化期は越冬成虫の死亡による産卵前の他のピークがあると考えられる。死亡率(100qx)は1化期では, 卵から2令期幼虫にかけて減少するが, 2・3化期では逆の傾向を示す。これはおもに1化期と他の化期との間の卵寄生率の違いによる。卵期のおもな死亡要因は, 卵寄生蜂, 生理的原因による死ごもりおよび気候要因である。Asolcus mitsukuriiはどの化期でも最も優位な種である。Telenomus nakagawaiは3化期卵にはほとんど見られない。その他の卵寄生蜂2種は2化期卵にわずかに寄生した。卵寄生率は1化期74%, 2化期25%, 3化期21%であった。A.mitsukuriiによる寄生率は後期に産れた卵塊ほど高くなるが, T.nakagawaiではこのような関係は見られない。若令幼虫は強い集合性をもっているため, 若令期における捕食や気候要因による死亡は幼虫集団全体の消滅をもたらす。1化・3化期の95卵塊の観察および2化期の令期別の集団消滅率から2令幼虫が最もクモに捕食されやすい時期であることがわかった。3化期におけるクモの捕食がカメムシ個体数に及ぼす影響は, ふ化幼虫数の2.3%に当たると計算された。天候は卵期, 老令幼虫の直接的死亡要因としては通常の条件下では重要でないと思われる。若令の幼虫集団は地表面に近いところにある場合は豪雨によって消滅することがよくある。台風が卵および1令幼虫に及ぼす影響は, 発育が進んだ段階にあるものほど大きい。すなわち産卵直後のものは最も影響少なく, 1令初期のものは最も大きい。2令になった幼虫は台風による影響を全く受けなかった。卵から成虫羽化までの死亡率は1化期約99%, 2化期91%, 3化期95%であった。成虫の性比を1,産卵卵塊数2,その間に死亡がないと仮定すれば, 個体数変動の状況は1対の越冬成虫は1.48頭の1化期成虫を生じ, 続いて早期栽培水稲で11.00頭の2化期成虫, これが晩期栽培水稲では54.44頭の3化期越冬前成虫を生ずる。すなわち水稲における連続2世代の繁殖は1化期成虫のおよそ35倍に成虫密度を高める。このことは各種作付の水稲が混在しているわが国南部でミナミアオカメムシが増殖した事情を説明しているかと考えられる。3世代にわたる生命表の比較から, 1化期卵における平均寄生率74%を, 6月に産まれた卵の平均寄生率90%(5月は60%)の水準に上げる, いいかえれば早い時期に産まれた卵の寄生率を天敵の導入または増殖によって人工的に高めることができれば, ミナミアオカメムシの個体群密度を長期にわたって低い水準に保ちうる可能性があると結論された。