著者
津久井 稲緒
出版者
神奈川県政策局政策研究セン
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2015

地域社会が直面する様々な課題に対応するために、近年、自治体と企業とが「包括協定」を締結するケースが見受けられる。本研究の中・長期的な目的は、現代社会に求められている協働の一形態、「包括協定」が、地域経営のイノベーションとなり得るのかを明らかにすることにある。この目的を達成するために、平成26年度は、都道府県と企業・大学とで締結する包括協定の現況調査を行った。この成果をふまえて平成27年度は、包括協定に積極的な企業と自治体へ、その具体的な運用状況についてのヒアリング調査を実施した。包括連携協定締結後、継続的に具体的な事業へつなげている自治体は、自治体各部局の事業メニューをHP上に掲載する、自治体内部向けの庁内グループウェアで周知を行う、企業からの相談・申込手続きを簡便化しHP上で大々的に協力募集を行う等の活動が見受けられた。企業へのヒアリングでは、毎年事業を行っていくと、やがてアイデアが煮詰まるのではないかという不安の声を受けた。企業にとって、自治体の各部局がどのような事業を行っているのかは不明であり、包括連携協定締結後に、企業が手探りで事業を企画・提案している姿が浮かび上がった。包括連携協定は、自治体にとっては、複数分野に亘る事業の同時推進、企業との関係強化のためのアナウンス効果、新たな分野での連携の実現、地域振興等のメリットが見出される。企業にとっても、自社のCSR活動の活性化、地域密着企業というアナウンス効果、新たな地域貢献分野の開発、自治体との連携に伴う実務面での負荷の低減等のメリットがある。また、地域社会にとっては、実質的な事業からの恩恵を受ける他、地域社会の潜在的な期待の掘り起こしにつながる可能性がある。しかし、自治体・企業共に、まだお互いの力を活用し切れているとはいえない。包括連携協定による協働の効果を発揮させるためには、それを支えるための組織体制の構築が求められる。