著者
津布久 咲子 吉田 久雄 林 明人
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.290, 2011

【はじめに】ROM制限に対する理学療法の手技は様々であるが、超音波療法については報告も少なく、また肯定的な意見も少ない.今回、超音波療法を運動療法と共に併用することで、高度なROM制限が改善した症例を担当したので、超音波療法の治療効果についての文献も加え報告する.尚、報告に際しては本人より同意を得た.<BR>【症例紹介】54歳男性.診断名:右膝化膿性膝関節炎.H22.5.8夜間に突如、右膝関節痛出現.5.27体動困難となり、当院に緊急入院となった.5.31関節鏡下滑膜切除・洗浄デブリードメント術施行(~6/3まで持続灌流).6.8理学療法を開始.7.7より超音波療法を開始.9.27理学療法を終了.<BR>【治療経過】<B>開始時</B>画像所見:X-P上、骨関節の明らかな異常所見(-) 炎症値:CRP10.1mg/dl 視診:右膝関節の腫脹(+) 触診:右ハムストリングスの短縮(+),右膝蓋大腿関節の可動性は全方向に認められず 疼痛:右膝関節周囲に常時出現 ROM:右膝屈曲60°伸展-20°移動:NWBでの歩行は疼痛により持続困難で、車椅子利用<BR><B>超音波療法開始時(術後5週)</B>炎症値:CRP<0.3mg/dl 触診:右膝蓋大腿関節の可動性は健側と比して頭尾側に1/2程度、内外側に1/3程度と低下していた 疼痛:右膝関節内側裂隙に荷重時痛(+),右膝屈曲時に膝蓋骨下を水平に走る疼痛(+) ROM:右膝屈曲90°伸展-20°移動:荷重時痛のため1/2~2/3PWBでの両松葉杖歩行<BR><B>終了時(術後17週)</B>疼痛:屋外歩行時に荷重時痛(+) ROM:右膝屈曲135°伸展-5 °移動:独歩・一足一段での階段昇降可能<BR>【超音波療法の設定】治療部位:右膝蓋骨下軟部組織 方法:直接法、温熱モード 周波数:1MHz 強度:1.0~1.5W/cm<SUP>2 </SUP>治療時間:10分 連続性:100% 頻度:2~3回/週(計15回)<BR>【考察】今回担当した症例は、高度なROM制限を呈しており、ROM改善に難渋した.ROM制限の要因として、膝蓋骨下軟部組織の柔軟性低下が関与していると考え、同部位の柔軟性獲得を目的に術後5週目より温熱療法を併用した.超音波療法は、物理療法の中でも特に深達性の温熱効果が得られるため、本症例に適応があると考えた.物理療法の温熱効果に関しては、Lehmannらの動物実験から『軟部組織の伸張性向上に温熱療法は有効である』、沖田らの動物実験から『拘縮の治療として温熱療法と運動療法の併用は有効である』とあるが、臨床においては『温熱効果の有用性を示唆する』といった内容の報告に留まっている.しかし、今回の症例ではROMの改善を得て、さらにADLの改善にもつながった.治癒過程における組織学的変化や退院後の活動量増加など他の要因も考えられるが、他の文献と同様にROM改善の一助として超音波療法も有効であるのではないかと考えられた.