- 著者
-
洪 ジョンウン
- 出版者
- 関西社会学会
- 雑誌
- フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
- 巻号頁・発行日
- vol.14, pp.3-16, 2015-06-25 (Released:2017-09-22)
本稿は、1960年代において在日朝鮮人女性が「女性同盟」の活動を通じて獲得した民族アイデンティティの特徴について考察することを目的とする。北朝鮮を支持する「朝鮮総連」の傘下団体である「女性同盟」は、戦後、最も古い歴史を持つ在日朝鮮人女性団体である。北朝鮮への帰国運動が始まったばかりの1960年代初頭、大阪では「女性同盟」の活動家によって朝鮮学校に「オモニ会」が発足され、公的領域においてもオモニ役割が遂行されるようになった。北朝鮮の影響を受けて1962年に開かれた「オモニ大会」ではオモニとしての役割が公式に強調され、北朝鮮の「革命的オモニ言説」が総連系在日朝鮮人社会に広がる契機となった。「女性同盟」は「康盤石女史を見習う運動」を行い、金日成の母である康盤石を理想化した。康盤石は自ら革命家になるよりも、革命家の子どもを育てることに重点を置く女性像であったため、「女性同盟」の活動家にとって良妻賢母主義を批判的に克服することは難しかった。一方、多様な女性闘士が登場する『回想記』シリーズを用いた学習では、自ら革命の闘士となった女性像を探り出す転覆的読み方の試みが行われ、新たな遂行性の可能性を見せた。1960年代総連系在日朝鮮人の民族運動はジェンダー化されていたため、それに参加した女性主体は、オモニ役割の遂行によって、単なる民族アイデンティティではなく、オモニというジェンダー化された民族アイデンティティを遂行的に構築・再構築したといえる。