著者
浅野 信一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1730, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】内発的動機づけと外発的動機づけがバランス良く成り立つ事が,臨床実習成果向上の大きな要因の一つである。承認行為としての褒める叱るは外発的動機づけであろう。指導者がそれを理解し実際の指導に当たることは,実習をより有意義なものにするための鍵となり得ると考える。今回,臨床実習学生に対して褒められ・叱られ経験とその時の感情および最終的な達成感,さらには実習中「楽しい」と感じた体験を尋ねることにより,外発的動機づけと学生の心理への影響および実習達成度,満足度との関連性について知見を得たので報告する。【方法】対象は,平成25年4月から27年10月までに当院で実施した総合臨床実習の実習生42名(男性21名,女性21名,平均年齢21.9歳)である。調査方法は質問紙により,担当指導者の影響を受けない状況となるよう,実習最終週に発表者自らが学生個々に説明・依頼をして直接回収した。調査項目は,実習期間中の褒められ経験と強い口調の注意や指導を含む叱られ経験の有無とその回数および指摘内容。褒められた時の感情として,「その時は率直にうれしかったか」「その時実習遂行意欲は増したか」を,叱られた時として,その時の気持ちに一番近い状態(不安・怒り・虚しさ・恐怖・悲しさ・嬉しさから選択),「その時自己否定感を感じたか」「それは今克服できているか」を尋ねた。更に「実習の自己達成感」および「カリキュラムとしての実習と考えたときの満足度」をパーセントで示してもらった。関連項目として,学校教員からの褒められ叱られ経験および実習中楽しかった事を尋ねた。【結果】設問〔この臨床実習期間中に実習指導者から褒められるという経験をしたか:自分が褒められたであろうと感じた経験〕の設問では「はい」37名,「いいえ」5名。〔それは何回くらいか〕では5回以上と答えたのは15名。〔その時うれしかったか〕では全員が「はい」。〔実習遂行意欲は増したか〕では「はい」34名,3名が「いいえ」と答えている。〔実習指導者から叱られたという経験をしたか:強い口調の注意や指導含む〕に対して「はい」25名,「いいえ」17名。〔何回くらいか〕では5回以上が4名。〔その時の気持ち〕では,不安11名,虚しさ20名,恐怖1名,悲しさ4名(未回答1名)。〔その時自己否定感を感じたか〕で「はい」20名,「いいえ」5名,〔それは克服できているか〕では「はい」12名,「いいえ」が8名であった。自己達成感の平均値は61.3%,満足度は75.4%であった。褒め叱りの有無や回数,克服状況等で比較をしたが,克服できなかった8名の達成度が53.8%と他と比べ低めであった。その他男女差等の諸条件で検討したが優位な偏りは認められなかった。【結論】当院での実習生の褒められ叱られ経験と,その時の感情,実習達成感,実習中楽しく感じる経験等の実態を知ることができた。今後の実習指導に生かしていきたい。