著者
笹川 寿之 浜 祐子 島影 美鈴 井上 正樹
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

HPV16感染は子宮頚癌を誘発する。したがって、HPV16の感染予防ワクチンの開発が進められている。HPV16などの癌誘発HPVに感染する若い女性のほとんど(70-90%)は自然治癒するという疫学結果があり、HPV感染予防ワクチンの臨床応用に際して、どのような対象者にHPVワクチンをするのかという問題点がある。HPV感染防御は、治療法のない現在において、女性の健康にとって重要な問題であるため、より簡便で低コストのワクチン開発が期待されている。最近、鼻粘膜にHPV16VLPを免疫することで有効な中和抗体が誘導されるることを明らかになった。本研究では、我々が開発したHPV16VLPを産生する酵母をマウスに食べさせ、食べるワクチンによって有効なHPV抗体が誘導されるかどうか検討した。方法は、2系統のマウス(Balb C, C57BL)を用い、酵母またはHPV6型酵母を食べさせたものを陰性コントロール、精製したHPV16VLPを鼻粘膜に処置したものを陽性コントロールとした。6匹はHPV16酵母のみ食べさせ、あとの12匹はHPV16酵母とコレラトキシン(CT)(アジュバント)を食べさせた。HPV抗体はHPV-VLPを抗原にしたELISA法で測定した。その結果、HPV16VLPに反応する血清中IgG抗体は、陰性コントロールは陰性であったが、2匹の陽性コントロール、HPV16酵母のみ処置したマウスの50%(3/6)、HPV16酵母+CTマウスの30%(4/12)に誘導された。陽性例の抗体力価は、陽性コントロールとHPV16酵母処置群との間に差はみられなかった。膣粘液中の粘液のIgA抗体はHPV16VLP+CTマウスの17%(2/12)にのみ誘導された。これらの抗体は、変性したcapsid抗原には反応しなかったことから、中和能を持つと考えられた。より有効な免疫法を樹立するため、現在、実験条件を変えて追加実験中である。
著者
笹川 寿之 浜 祐子 GIGA-HAMA Yuko
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

高リスク型ヒトパピローマウイルス(HPV)のHPV16が子宮頚癌の発生を誘発することが明らかになっている。したがって、HPV16に対して有効な免疫を誘導することが感染防止や将来の癌発生防止に有効であると考えられている。米国のグループがHPV16型L1蛋白を酵母で発現させて作成したウイルス様粒子(VLP)をワクチンとして人に免疫したところ、100%その感染は抑えられたと報じられた。このワクチンは注射ワクチンで、精製したウイルス様粒子を計3回の注射を行っている。効果はみとめられたが、このワクチンは単価が高く、また、低開発国など医療設備が充実していない地域において、このワクチンの保存や注射そのものが難しいなどの問題点がある。そこで、安価で経口投与出来るワクチンの開発が期待されている。最近、我々はHPV16型様粒子を産生する酵母を経口投与した後にごく少量のVLPを鼻粘膜に投与することで、HPV16型特異的な抗体が誘導されることを発見した。本研究では、この研究を発展させ、HPV16型感染の防御のみならず、HPV16型特異的なキラーT細胞を誘導し、治療を目的としたワクチンの作成を試みた。S.pombeの発現ベクターにHPV16L1-E7(L1を短くしたC-末に全長のE7を導入したもの)を組み込んで発現させたところ、57kD,63kD,67kDの蛋白発現に成功した。このHPV16L1-E7を発現する酵母を凍結乾燥させ、マウスに食べさせたところ、HPV16様粒子(VLP)に反応することを確認した。このことから、この融合蛋白がL1だけで構成される粒子と同じような粒子を形成し、それによって抗体産生が誘導されることが示唆された。E7に対するキラーT細胞が誘導されているかどうかについて今後検討する予定であり、もしこれが誘導されれば、予防的かつ治療的ワクチンとして有望となる可能性がある。