- 著者
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山田 泰士
志垣 竹弥
金澤 親良
安野 嘉郎
浪本 正晴
- 出版者
- 九州理学療法士・作業療法士合同学会
- 雑誌
- 九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
- 巻号頁・発行日
- vol.2009, pp.97, 2009
【はじめに】<BR> 左片麻痺により起居動作や歩行の円滑性が妨げてられている症例に対して、その原因の一つとなっている肩関節亜脱臼(以下肩亜脱臼)と上肢屈筋痙性を軽減する目的で、上肢装具を試作し一定の効果を得ることができたので報告する。<BR>【対象】<BR> 視床出血により左片麻痺を呈した45歳男性。理学療法所見では、左上肢Brunnstrom Stage2~3で左肩亜脱臼が認められた。また動作時に左上下肢の痙性を認め、左上肢は屈曲肢位を呈し、生活動作全般で非対称姿勢が生じていた。深部腱反射は左上腕二頭筋と左上腕三頭筋においてやや亢進状態であった。<BR>【上肢装具】<BR> ネオプレーン生地3mmを使用し肩全体を包み込み、烏口突起から後方に固定用補強ベルト付けた。前腕部からのベルトを前腕外側から上腕内側に螺旋状に走らせ、腕全体を引き上げて肩関節後方で止めた。<BR>【方法】<BR> 1肩亜脱臼:単純X線撮影による骨頭下降率を計測した。2動作分析:起居動作と杖歩行の動作分析を行った。また歩行は、10m歩行の速度、歩幅、歩数を計測した。(1,2共に装具非装着時、装着時計測)<BR>【結果】<BR> 1肩亜脱臼:骨頭降下率は非装着時で20%、装着時で6%と亜脱臼の改善を認めた。<BR> 2動作分析:1)起居動作、非装着時:左肩甲帯は後退し、左肘関節と手指は連合反応により屈曲を呈している。装着時:左肘関節は連合反応により軽度屈曲位であったが、左肩甲帯は中間位となり、手指は若干伸展位を認めた。2)杖歩行、非装着時:左肩甲帯は前傾し、左肘関節と手指は連合反応により屈曲を呈している。体幹は右偏側位で非対称的であり、左下肢への荷重が不十分である。10m歩行:速度平均62秒、歩幅平均40cm、歩数平均55歩。装着時:左肘関節と手指は若干屈曲を呈しているが装着前と比較し手指は伸展位を認めた。左肩甲帯は中間位となり、体幹はほぼ正中位で保持され対称的となった。そのため左側への重心移動が可能となった。10m歩行:速度平均59秒、歩幅平均42cm、歩数平均52歩。<BR>【考察】<BR> 本装具では、前腕部からベルトを螺旋状に走らせ、上肢を外旋・伸展位に保持し上肢全体を引き上げることを可能にした。このことにより関節窩での上腕骨頭の位置の改善や左上肢下垂位により生じる上腕二頭筋の伸張反射亢進、連合反応による左上肢屈筋痙性の高まりを軽減できたと考える。また左肩甲帯を中間位に矯正したことも過剰な連合反応の抑制にも繋がった。これらにより、姿勢が対称的となり起居動作や歩行時の動作改善に繋がったと推察された。そして、本装具を常時装着することは、疼痛軽減や関節拘縮の予防を促し、また麻痺側上肢の痙性を抑制し、麻痺側上肢自体の使用頻度増加による機能回復が促される可能性があるために、今後一人で本装具を着脱できるよう改良する予定である。