著者
西沢 美奈子 徳山 治 深山 雅人 川村 直樹
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.148-154, 2014

女性の尿閉は10万人あたり7人と報告されており,とくに婦人科疾患によるものはまれとされている.子宮筋腫はその原因疾患に含まれるが,腫大子宮による尿路系圧迫に伴う症状としては頻尿が比較的多く認められるものの,尿閉をきたすものはまれである.これまでに1~3例の症例報告はみられるが,まとまった症例数での系統的解析が行われた報告はない.今回,われわれは子宮筋腫が原因と思われる急性尿閉を発症した10例を経験したので,その臨床背景,発症時の状況,病態について診療録をもとに後方視的に検討した.対象は,2006年4月から2012年3月までの6年間に当院子宮筋腫外来を受診した2032例の患者のうち,急性尿閉をきたした10例(0.49%)である.年齢は38~51歳,子宮の大きさは妊娠12~21週相当,3例が頸部筋腫を有し,7例は体部筋腫のみであった.いずれの症例も尿閉は膀胱に尿が充満しているときに発症しており,起床時にみられることが多く,確認できた残尿量は175~1600mlであった.導尿後は尿閉が継続してみられることはなく,膀胱充満時に腫大子宮体部が上方あるいは後方へ変位し,その結果,尿道の変位・延長,後方からの子宮頸部の尿道圧迫などが生じて一過性尿閉が出現したものと推測された.子宮筋腫が原因と思われる尿閉の既往がある場合,原則外科的介入の適応とされるが,眠前の多量水分摂取を控えたり,膀胱に尿が充満しすぎないよう注意することなど生活習慣を指導することで,その後尿閉を繰り返さず経過する場合が多い.したがって,とくにまもなく閉経を迎える年代では1度の急性尿閉のエピソードは外科的介入の絶対適応ではないものと考えられた.〔産婦の進歩66(2): 148-154,2014 (平成26年5月)〕