著者
増山 豊 深澤 塔一 桜井 晃
出版者
金沢工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

我が国を代表する弁才型帆船の帆走性能を明らかにする一環として、帆船として特に重要と考えられる上手回し操船が可能であったかという点に焦点をあてて研究を行った。まず、大阪市が復元建造し筆者らが海上帆走実験を行った菱垣廻船"浪華丸"を具体的な対象として、定常帆走性能を求めるとともに、下手回し操縦運動シミュレーションを行う手法を確立した。このため、船体に関しては曳航水槽試験を行うとともに、帆に関しては風洞試験を行った。なお帆の性能に関しては、空力実験船「風神」を用いた実船レベルの海上試験と数値計算も実施した。また明治後期からは弁才型船に伸子帆が取り付けられた「合いの子船」も多く運用されたため、伸子帆の性能についても実験を行った。なお、伸子帆の性能に関してはこれまで公表されたものはなく、本研究によって初めて明らかとなったものである。浪華丸の定常帆走性能の計算結果と下手回し操縦運動シミュレーション結果は、同船の海上帆走実験データと比較され、よく一致することが確認された。一方、上手回し操船は浪華丸の海上実験でも実施されていない。このため、このような弁才船が上手回し操船が可能であったかについては、上記で精度が確認されたシミュレーション手法を用いて判断することにした。その結果、弁才型の船に弁才帆を組み合わせた場合は、残念ながら上手回しはできなかったものと考えざるを得ないものとなった。一方、弁才型の船に伸子帆を組み合わせた、いわゆる「合いの子船」とした場合は十分に上手回しが可能であることがわかった。このことは、船型的には弁才型の船が上手回しを行うことが可能であることを示しており、風上方向への切り上がり角が70°であることを含めて、江戸時代に完成された船としては、当時の西洋型帆船と比較しても遜色のない性能を有していたことが明らかになった。