- 著者
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深町 晋也
- 出版者
- 立教大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2016-04-01
2019年度は、前半の期間を中心として、日常的迷惑行為の中でも特に親密圏における問題事象の研究を行った。その基本的な柱は4つに分けることができる。第1の柱は、前年度に引き続き、両親間における子の奪い合いと拐取罪の成否に関する研究である。前年度までに行ったドイツ語圏を中心とする広汎な比較法的検討の成果として、2019年度は、我が国におけるこの問題に関する最高裁判例の分析を行いつつ、なお解決されていない問題点を明確化し、その解決のための方法論的基礎を模索する論稿を公表した。第2の柱は、前年度に引き続き、家庭内における児童に対する性的虐待を中心とした性犯罪に関する研究である。2019年5月に、国立臺灣大学における招待講演・ディスカッションを行い、台湾における問題状況との比較検討の上、我が国の家庭内における性的虐待の問題点について分析した。第3の柱は、2019年5月に開催された日本刑法学会第97回大会のワークショップにおいて、児童虐待に対する刑事法的規制のあり方につき、親の有する懲戒権との関係で分析を行い、また、そうした研究の成果を公表した。従来、親の懲戒権は一定の限度での子に対する体罰をも許容するものと解されてきたが、児童虐待防止法の改正による体罰禁止規定の導入を受けて、こうした懲戒権にいかなる制約が生じ、また、それが刑法上の違法阻却事由にいかなる影響を与えるのかといった点について、比較法的分析や我が国の判例・裁判例分析を通じて一定の結論を示した。第4の柱は、日常的迷惑行為の刑法的規制を考える上で重要となる刑事立法学に関する研究である。ドイツにおける麻疹予防接種「義務化」を巡る議論を丹念に渉猟することで、親の有する子に対する権利・義務と子に対する予防接種「義務」との緊張関係について分析・検討を加えた論稿を公表した。