- 著者
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淺沼 克彦
- 出版者
- 順天堂大学
- 雑誌
- 順天堂医学 (ISSN:00226769)
- 巻号頁・発行日
- vol.53, no.1, pp.11-19, 2007-03-31
- 被引用文献数
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腎臓の糸球体上皮細胞glomerular visceral epithelial cellは高度に分化した細胞であり,糸球体基底膜(GBM)を外側から覆い,その外観から最近はタコ足細胞podocyteと呼ばれている.糸球体上皮細胞は血中蛋白質の最終的な濾過障壁であり,糸球体上皮細胞障害は著明な蛋白尿を引き起こす.糸球体上皮細胞障害は,多くの腎疾患や様々な実験腎炎モデルにおいて認められている.糸球体上皮細胞障害の早期には,まずスリット膜の分子構造の変化が認められ,足突起の細胞骨格の分布が変化し,足突起は消失foot process effacementして,その噛み合わせを失う.足突起消失と蛋白尿の出現に関わる糸球体上皮細胞障害の原因として主に,(1)スリット膜複合体の障害,(2)足突起内のアクチン骨格の障害,(3)GBMや糸球体上皮細胞-GBM接合部の障害,(4)糸球体上皮細胞の陰性荷電障害の4つが考えられている.近年,スリット膜の多くの構成分子が発見され,それぞれの構成蛋白間の相互作用も判明してきている.スリット膜を構成する蛋白のノックアウトマウスの多くは,蛋白尿を生じ糸球体硬化を引き起こすことから,スリット膜複合体分子は,それぞれ透過性の制御に重要な機能をもっていることが考えられている.足突起の複雑な構造は主に太いアクチン束によって支持されており,足突起消失のメカニズムの解明のためには,そのアクチン線維束に焦点をあてた研究も必要である.