著者
清水 晋作
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.103, pp.21-43, 2019-10-16 (Released:2021-10-24)
参考文献数
30

「ポスト真実」、特に「トランプ現象」を受けて、本稿は、ホーフスタッターの「反知性主義」論に依拠して、アメリカン・デモクラシーおよび民主主義の課題とゆくえを展望する。「トランプ現象」をめぐっては多くの議論や解釈がなされており、「ポピュリズム」、「グローバリズム/反グローバリズム」などの文脈で論じられることが多いように思われる。筆者は、「トランプ現象」を理解するために、ホーフスタッターが『アメリカの反知性主義』において展開した議論が有効であると考えている。本稿では、ホーフスタッターが「ニューヨーク知識人」の一員であったことから、ニューヨーク知識人としての側面にも着目しつつ、反知性主義についての彼の考察を通じて、「ポスト真実と民主主義のゆくえ」を展望したい。 本稿の議論は以下のように進める。第一節では、ホーフスタッターが属していたニューヨーク知識社会について概観し、ホーフスタッターの反知性主義論はマッカーシズムを背景に書かれたことを確認する。第二節では、さらにホーフスタッターを含めた「ニューヨーク知識人」のマッカーシズム論を考察し、ホーフスタッターの議論の内容と背景を理解する一助としたい。特にR・ホーフスタッター、S・M・リプセット、D・ベルの分析を取り上げる。第三~五節において、ホーフスタッターの『アメリカの反知性主義』の議論を追いかけながら、アメリカン・デモクラシーの特質について検討する。
著者
清水 晋作
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.96, pp.63-82, 2015-07-10 (Released:2022-01-21)
参考文献数
28

本稿は、知識人ダニエル・ベルの死がもつ意味を考察し、ベルの知識人論を検討することによって、「知識人の死」というテーマについて論じる。ベルは、二〇一一年一月に亡くなったが、「公共知識人」と評されるニューヨーク知識人の一員であり、さらにはその知識社会における中心的存在であった。R・ジャコビーは、ベルを含む同世代のニューヨーク知識人たちを「最後の知識人」と評価した。知識人として「公衆」に訴えかけるスタイルをとった最後の世代という意味である。 ベルの知識人論において、ニューヨーク知識人の特徴が示される。ニューヨーク知識人たちが共通にもつ特徴は、イデオロギーを掲げ、疎外の感覚をもち、思想闘争に参画してきたことである。ただしベル自身は、他のニューヨーク知識人と比べて、関心と活動の範囲が広く、特異な位置を占めていた。ベルは、公共政策の領域に深く関わり、政策レベルの論争に踏み込むことがしばしばあった。そのうえで、強い理論的志向を併せもち、彼の究極的意図は、社会学理論の再構築にあった。 知的専門分化が進み、そうした知的状況への批判として「公共社会学」について活発に議論される時代にこそ、「公共知識人」として評価されるベルやニューヨーク知識人の足跡を辿ることに意義があろう。