著者
清水 章雄
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.10-18, 2011

<p>日本神話は、始原の時を雑霊(ぞうりょう)の活動する世界として表現した。「さばへなす」は呪力を持つ蝿(はえ)の意味で、始原世界を表す定型句である。蝿は最初の死者イザナミに集(たか)った黄泉国(よみのくに)の蛆(うじ)が変身したものである。「さばへなす」は、愛によって親を苦しめる「子ども」、皇子(みこ)の死に動揺する「舎人(とねり)」にも冠(かん)せられた。また「さば海人(あま)」は異言語を話す異人を言う諺(ことわざ)であった。雑霊の表現の特質が集合・雑音(ざつおん)・無名であることを、本論は明らかにした。</p>