著者
清野 馨
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.291-298, 1991-06-05

東北、北陸、九州の各農試で試験年次を異にして栽培されたササニシキ、トヨニシキ、マンリョウ、レイホウの4品種について、養分吸収ならびに生育様式と収量構成因子との相関関係を検討し次の結果を得た。1)玄米重では東北の2品種が生育初期の窒素との相関が高かったが、しいな重、屑米重、玄米千粒重、登熟歩合、穂数、一穂籾数などは各品種ともに窒素以外の多量要素、微量要素と高い相関を示した。このことは、玄米生産において窒素が制御因子となっていない場合はもちろん、たとえ窒素が制御因子である場合においても、収量を構成する諸要素と、窒素以外の多くの無機成分の吸収との間には密接な関係があることを示すものである。2)養分吸収は各生育時期における含有率、含量のほかに生育期間(IからV)ごとの養分吸収濃度を指標としたが、含有率、含量との相関の高い穂数、屑米重に対し、玄米千粒重、登熟歩合などは、ある期間の養分吸収濃度との相関が高い傾向を示した。また、マンリョウ、レイホウは東北の2品種に比べて、養分含有率、含量との相関よりも、生育期間後との養分吸収濃度との相関が高い傾向にあった。3)東北、北陸の3品種では、登熟に関係する因子が水稲の生育初期における養分吸収様式と相関を示す事例が多く認められた。この地域の稲作における初期生育の重要性を示すものである。九州で供試したレイホウでは、III期(生育停滞期、ラグ期)の養分吸収濃度と相関を示す因子が多く、この期間の栄養管理の重要性を示唆した。4)しいな重、屑米重は窒素のほかリン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムなどの吸収様式と相関を示した。これらの養分がそれぞれ土壌中の含量、灌がい水温、水稲体内の陳謝異常、施肥法などにより他の養分とのバランスを崩した結果、発育停止籾の制限因子となっていることを推定した。したがって土壌、肥培管理の改善により発育停止籾の減少、増収、米質向上の可能性のあることを明らかにした。5)冷水灌がいがなされた東北の2品種ではナトリウムがしいな重と負の相関を、九州のレイホウでは中干し期間中のナトリウムが一穂籾数と正の相関を示し、ともに収量的に有利に働く傾向が認められるが、いずれの場合にもカリウムの吸収抑制に伴う代替作用と推察された。6)水稲の苗あるいは分げつ期の茎葉のカリウム、ケイ素、鉄、ナトリウム含有率が、生育後期の同養分含有率と高い相関を示すことが認められた。