著者
渡辺 信二
出版者
山梨英和学院 山梨英和大学
雑誌
山梨英和大学紀要 (ISSN:1348575X)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.1-28, 2020 (Released:2020-12-01)

高村光太郎の初版『智惠子抄』は、日本で最も多くの部数を売り上げた愛の詩集であると高い評価を受けているが、この論文は、『智惠子抄』が詩作品だけではなくて、短歌や思い出の記に当たるエッセイを含むことに着目して、『智惠子抄』を単なる詩集というよりは、むしろ、全体を「光太郎」と「智惠子」の愛の生活に関する一創作作品とみなす。その上で、そこに収録された殆どの詩作品が、日記圧縮版か、熱情の戯れ言、「心的衝動」や「エネルギー放出」の排出物であり、たかだか、詩もどきにすぎないけれども、唯一「レモン哀歌」のみが一人称と二人称を使い分け、作品中の時間を2重化することによって、作品構成上、及び、時間構成上、虚構となり得ており、その点で、高く評価に値することを示そうとする。