著者
渡辺 憲正
出版者
関東学院大学経済経営学会
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
no.275, pp.109-127,

これまで,ホッブズの自然状態=戦争状態は,近代的個人を前提として抽象的に構成された論理的なフィクション,あるいは近代国家を構成するために仮構された近代文明社会の反転像であるかのような解釈が,一般になされてきた。しかし,これによっては,第1 に,ホッブズがコモンウェルス(国家)の歴史的設立そのものの根拠を問うた意味が失われ,第2 に,ホッブズがコモンウェルス設立後に論じた「コモンウェルスの弱体化ないし解体」の意味が曖昧にされた。そして第3 には,解体後のコモンウェルス再措定という近代的意味と社会契約説の2 段階論的構成が平板化された。ホッブズにとって,国家が人間の本性に属さないことは自明である。だからこそ,なぜすべての人を拘束する国家は設立されたのかという問題が歴史的に提起されなければならない。それゆえ自然状態は,近代的個人を前提したフィクションであってはならなかった。本稿は,この視角からのホッブズ自然状態論の再検討を目的としている。