著者
澤田 寛子 徐 相規 藤山 正史 渡邊 太治 藤原 伸介
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.82, no.5, pp.389-397, 2011-10-05
参考文献数
30
被引用文献数
2

長崎県佐世保市の北部高標高地帯では,梅雨明け前後に水稲上位葉の葉先や葉縁部が褐色〜白色化し,その後の障害の進行と発症株の増大によって水田の一部がつぼ状に枯れ上がる'水稲葉枯症'が40年以上も昔から知られてきたが,その真の原因や発症機構は未だ不明である.本研究では,水稲にストレスが負荷される時期や葉枯症をもたらすストレス要因を明らかにすることを目的に,2006年〜2008年の3年間にわたって葉枯症の発生地域および発生歴のない近隣地域の水稲について,生育時期を追って健全葉と障害葉におけるストレス応答成分を分析した.その結果,エチレン前駆物質のACC(遊離および結合態の合量)およびポリアミンの葉中レベルが葉枯症の発症に伴い上昇することから、その診断に有効なストレス指標と考えられた.ACCおよびポリアミン含有量の変動に基づき,各年におけるストレスの推移を推定したところ,葉枯症が激発した2006年および2007年は,梅雨から梅雨明け直後にかけて発症地域の健全葉中ACC含有量が上昇し,この時期に既にストレスが負荷されていることが推測された.また,発症地域では8月以降に健全葉中のポリアミン含有量が上昇したことから,水稲の生育後半に,被害拡大をもたらす強いストレス負荷のあることが示唆された.梅雨の期間が短く,深刻な葉枯被害のなかった2008年は,梅雨明け期におけるACCやポリアミン含有量の顕著な上昇は認められず,当該地域においては初期のストレス負荷が少なかったものと推定された.水稲に葉枯症を引き起こし,障害を促進するストレス要因をストレス負荷のあった時期の気象条件や大気環境との関連などから考察した.