著者
齊藤 明 皆川 洋至 渡部 裕之 川崎 敦 岡田 恭司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1262, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】成長期野球肘は骨軟骨障害が主体であり,肘関節外側では上腕骨小頭,内側では上腕骨内側上顆に発生する事が多い。いずれも投球時の肘関節外反が関与するとされており,その制動には前腕回内・屈筋群が働くと考えられている。臨床においてもこれらの筋の硬さは頻繁に経験するが,成長期野球肘の外側・内側障害との関係は明らかにされていない。本研究の目的は,超音波エラストグラフィ(Real-timeTissue Elastography:RTE)を用いて円回内筋の硬さと成長期野球肘の外側障害および内側障害との関係を明らかにし,予防や治療の一助とすることである。【方法】A県野球少年団に所属する離断性骨軟骨炎患者8名(外側障害群:平均年齢11.3歳),野球肘内側障害患者27名(内側障害群:平均年齢11.5歳),健常小学生43名(対照群:平均年齢10.5歳)を対象に,RTEを用いて投球側,非投球側の円回内筋の硬さを測定した。測定肢位は椅子座位で肘関節屈曲30度位,前腕回外位とし,円回内筋の撮像部位は短軸像で上腕骨滑車を描出した後,プローブを遠位へ平行移動させ上腕骨滑車が消失した位置とした。硬さの解析には円回内筋のひずみ量に対する音響カプラーのひずみ量の比であるStrain Ratio(SR)を用いた。SRは値が大きいほど円回内筋が硬いことを意味する。また投球側,非投球側の前腕回外可動域を計測した。統計解析にはSPSS22.0を使用し,3群間でのSR,前腕回外可動域の比較には一元配置分散分析,各群における投球側と非投球側との比較には対応のあるt検定を用いた。【結果】投球側の円回内筋のSRは外側障害群1.77±0.39,内側障害群1.34±0.59,対照群0.88±0.34で外側障害群が内側障害群,対照群に比べ有意に大きく(それぞれp=0.050,p<0.001),内側障害群が対照群より有意に高値であった(p<0.001)。非投球側の円回内筋のSRは外側障害群1.02±0.31,内側障害群1.31±0.59,対照群0.89±0.30で内側障害群が対照群に比べて有意に大きかった(p<0.001)が,その他では有意差は認められなかった。各群における円回内筋のSRの投球側と非投球側との比較では,外側障害群で投球側が非投球側に比べ有意に高値を示した(p<0.001)が,内側障害群,対照群では有意差は認められなかった。前腕回外角度は投球側,非投球側とも3群間で有意差は認められなかった。【結論】成長期野球肘の外側障害および内側障害では,非障害肘に比べ投球側の円回内筋が硬いことが明らかとなった。特に外側障害では非投球側に比べ投球側でより硬く,内側障害では両側とも硬いことが特徴であると考えられる。また一般に臨床で用いられる前腕回外可動域は,これらの障害の特徴を反映しないことが示唆された。