- 著者
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高須 久
湯本 繁子
- 出版者
- 公益社団法人 日本皮膚科学会
- 雑誌
- 日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
- 巻号頁・発行日
- vol.71, no.4, pp.381, 1961 (Released:2014-08-29)
界面活性剤と化粧クリーム及び軟膏基剤 近時,化粧品,概要医藥品等による皮膚障害が非常に多くなつて来た.これ等化粧品及び市販外用医藥品は比較的医学知識の少ない人達によつて使用されるものであるが,又一方医家の指示の下に使用される軟膏剤に於いても必ずしも無刺戟であると断定し切れない.これ等について後述する様な理由からその基剤成分について化粧クリーム同様,今一度の檢討を要するのではないか.筆者の一人は化粧品技術にたずさわつているものであるが,刺戟作用という面に於いて共通の軟膏基剤を含めこの問題を取り上げて行きたいと思う.軟膏基剤については古来色々な分類方法が云われて来たが,現在一番常識的に我國で認められているのは小堀等によるもので,1)油脂性基剤,2)乳剤性基剤,3)水溶性基剤,4)懸濁性基剤の4つに大別される.この内乳剤性軟膏は一般に吸水性,浸透性という面ですぐれた作用を持つが,樋口等,土肥等は刺戟性という面に於いて劣るのではないかと報告している.又,化粧クリームについては,その皮膚障害に関する報告が多いが,その原因として明確にされている事が非常に少ない.中村の統計によると,化粧クリーム中特に高率の皮膚障害を起しているものはいわゆる藥効美白クリームと称せられているもので,次に多いものがコールドクリーム系の油分の多いものである.佐野等の統計によつても特種成分の混入はその刺戟性を増している.その様にこれ等特種成分の混入されているものは皮膚障害をなくす事は無理であるし,当然それ等は化粧品ではなく医藥品として用いるべきである.しかし一般の化粧クリームではそれが日常反復し長期に亘つて使用されるものである爲,たとえそれが健康な皮膚を対象とするものであつても軟膏基剤と同じく可及的に無刺戟でなければならない.しからばそれ等化粧品の皮膚障害の原因として解明されているものはと云えば皆無に近く,中村は藥効クリームは別として一般のクリームについては化粧品原料の粗悪によるものではなく,原因のほとんどは皮膚側の感受性にあると云つている.しかし化粧クリームは軟膏基剤と異なりその成分に欠くべからざるもの,即ち香料がある.例えばその一例としてベルロック皮膚炎は,その原因がベルガモット油中のテルペン類又はそれに類した精油の作用によるものと云われている.又一般に化粧品がその原因とされているRiehl氏黒皮症についても種々の見方がある.事実,化粧品に用いられる香料の成分中には多くの刺戟誘発物質が含まれているし,それ等に関して古来多くの研究が爲されているが,これ等に関する文献考案は外池による香料と色素沈着を主題とした研究報文中になされているのでここに於いてはふれない.この様にこれ等香料その他化粧品の多種多様に亘る成分中,障害の真の原因を探索する事は容易な業ではない.しかし比較的処方の單純な軟膏基剤に於いてすらその剤型(油脂性,乳剤性)の差異によつて刺戟性の多少が出る事は重大な意味を持つてくる.土肥,宮﨑の言及しているごとく界面活性剤が問題になるのではないか.即ちそれ等乳剤性軟膏と化粧クリームと共通した成分の再檢討,言いかえれば乳剤性軟膏が刺戟が多いという問題である.この基剤は舊来の基剤と比較して内容成分としての油脂には大差なく,その顯著な差異は界面活