著者
溝口 和臣
出版者
独立行政法人国立長寿医療研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は以下の仮説、「老化により前頭前野そのものの機能低下として抑うつや認知機能障害が発生するのと同時に、情動の発現に関与する扁桃体や側坐核に対する前頭前野による抑制が低下することによりストレス脆弱性が発生する」を、実験動物を用いた基礎研究から検証することを目的とした。研究実施期間は3年間とし、初年度である本年度は、当初の計画を若干変更しつつ、一部の実験を前倒しで実施した。以下に結果の概要を記す。ドーパミンD1受容体アゴニストの前頭前野内投与実験より、老齢ラット(24ヶ月齢)において観察されたワーキングメモリ障害は、前頭前野におけるドーパミン放出量の減少によるD1受容体刺激の低下に基づくことが明らかとなった(Mizoguchi et al., Neuroscience, 2009)。しかし、セロトニン系抗うつ薬の老齢ラットに対する抗うつ効果は限定的であった。グルココルチコイド受容体(GR)を介した作用の低下が、ドーパミン放出量を低下させることが示唆された。この結果を受けて、老化による前頭前野におけるドーパミン放出量の減少にGRの機能低下の関与を推定すべく、まずはGRのcoactivatorの発現を解析した結果、GRIP-1, SRC-1, CBPの前頭前野における発現は老化により減少することが確認された。ストレス反応性を検討した結果、老齢ラットではストレスによる不安の亢進が顕著で、且つ、血中corticosterone濃度もより高値を示し、老化によりストレス脆弱性が発現することが明らかとなった(Shoji and Mizoguchi, Behay.Brain Res, 2010)。この脳内機構として、老化による前頭前野の機能低下と、その低下に基づく扁桃体の機能亢進が重要な役割を果たしていることが示唆された。