著者
溝口(久保) 和子
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.35-43, 2014 (Released:2017-11-10)
参考文献数
5

ハゼ科魚類のアベハゼは,特に高密度での飼育下で,長時間空気中で過ごすことがしばしばある.その生態的理由を探るため陸上部を備えた2種類の実験水槽を用意し,その中でのアベハゼの行動を断続的に目視観察した.スロープ状の陸地で区切られた大小2つの水域をもつ水槽で,小水域にのみ多数のアベハゼを入れて極端な高密度状態にすると,ほぼ1日以内に約8割の個体が水際近くに上陸した.数日後には,上陸個体のいくつかが陸上を通過して対岸の水域に移動した.水域を分けず水面の一部を覆う形で陸上部を設置した水槽での観察(密度は1/4程度)でも上陸は速やかに行なわれたが,水中に留まる個体数は増えた.上陸割合の変化は飼育水の汚れの進行とは無関係なようであった.これらの観察から,アベハゼは過密状態緩和のために上陸すると思われる.また陸上移動行動には,生息域を広げるという意義もありそうだ.